第2部 9 故郷

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 越後湯沢駅で特急電車に乗り換え、富山駅に向かう。そこから高山本線に乗って30分。  駅前のタクシーに乗り、目的の住所を告げる。  40歳過ぎの運転手は、バックミラーで由美の身なりを確かめてから車を出す。  ラジオからはAM放送が流れていた。  車は駅前の商店街を抜けると、川を越え一気に山間部へと進んでいく。  対向車はほとんどなく、まっすぐな道に信号はない。 「お客さんは報道関係ですか?」  運転手が話しかける。 「はい」  由美が答えると、運転手は納得した様子だった。 「高木瑠香の取材ですか?」 「わかりますか?」 「今向かっている場所だと、それ以外に考えられませんから」 「そうなんですか?」 「この町は『おわら風の盆』って祭りが有名ですけど、あれは駅前の旧町って呼ばれる地域で行われていて、こっちの方向にはほとんど何もない」  由美が頷く。 「再来年には北陸新幹線ができるけど、あれはほとんど金沢に行っちゃうだろうし、川沿いや国道472号線の方向に、温泉とかキャンプ場があっても、それこそ車で一時間くらいかかる」 「事件当時はすごかったですか?」  由美は話題を変える。 「そりゃもう。自分も東京から来た記者の方を何名も乗せましたし、テレビカメラを担いだ一団が集落の住民に話を聞きに行く様子も見てましたけど、ちょっと異様な光景でした」 「でしょうね」 「田舎の老人なんて、あんな大きな報道用カメラ見たことないですし、知らない人に囲まれたら、びっくりしてまともに話すことなんてできませんよ」 「ええ」  由美は同意する。 「しかもまあ、仕事だからなんでしょうけど、みなさん顔がね、怖いんですよ。たとえが悪いですが、イノシシみたいな顔つきなんですよ」  運転手はそう言うと、由美の顔をバックミラーで覗いた。
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