第2部 10 イノベーティブな理想

1/2
前へ
/95ページ
次へ

第2部 10 イノベーティブな理想

 由美は19時前に富山駅を出る特急に乗り、東京への帰路についた。  出発してすぐ、今回の取材内容をパソコンにまとめると、名刺入れから取り出した久保田の名刺を手に、デッキに向かう。  名刺に書かれた携帯電話の番号に電話をかける。  コール音は聞こえるものの、誰も出ない。由美は英語の留守番電話案内を聞いてから、「今、佐伯玲と高木瑠香に関する記事を書いており、一度話を窺いたいと思っている」とメッセージを吹き込む。  電話を切った由美は、真っ暗な窓の外を眺めながら、「佐伯由美としてであれば、会えたかもしれない」と考えたが、記者としてのプライドから憚られた。  座席へ戻ろうとした所で、携帯電話が震えた。画面を見る。今掛けた番号からだ。 ――はい。週刊プレスの中川です ――久保田です。お久し振りです。ご連絡いただいたようですね ――はい ――急な話ですが、今晩どこかでお会いできませんか? ――今夜ですか? ――はい ――私は今地方から戻る途中で、東京に着くのが22時半とかですが…… ――こちらとしてはその時間でも構いません  久保田の急いた様子に、由美は若干の違和感を覚えながらも、その申し出は渡りに船だった。 ――わかりました。場所は以前のマンションですか? ――いえ。場所と方法については、後ほどSMSでお知らせします  由美は通話の切れた携帯電話を見つめる。出来過ぎの展開に、これも一種の罠ではないかと疑う。  だが、私と久保田が会うとして、リスクが大きいのは、明らかに向こうだった。  由美は座席に戻ると、質問の内容をノートにまとめ始める。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加