魔族にレベルを

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魔族にレベルを

 イルマとの通信後、魔王城へはすぐに到着した。  言うまでもなく、各種アイテムのお陰で長々と歩く必要もなく一瞬で移動が可能だからな。  そしてそのまま俺は、魔王の間へと転移したんだが。 「な……何だよ!?」  そこに待ち受けていたのは魔王リリアではなく、魔界が誇る4人の武将「四天王」だったんだ。 「……どういう事であるか」  表情のない顔に怒気を纏わせて、四天王筆頭の「虚無魔天王ナダ」が質問……と言うよりも詰問を俺に向けて来た。  ただいきなりそんな事を言われても、彼が何を言いたいのか俺にはサッパリだ。 「だから、何を言って……」 「惚けても無駄なんだよ、おらぁ! おめぇの差し金ってこたぁ、こっちにゃお見通しなんだよ、こらぁ!」  俺が問い返そうとするのを「混沌魔天王ハオス」が、凄まじい勢いと喧嘩腰の口調で問い質してきたんだ。  その迫力たるや、今にも俺に襲い掛かろう……と言うよりも、押し倒さんばかりだ!  いやだ! 俺は男になんて、押し倒されたくない!  因みにこんな言葉遣いではあるが、ハオスはそれほど怒り心頭と言う程ではない。言うなれば、こいつは元々口が悪いんだ。 「い……いい加減に……!」 「お前、魔王様に、何話した? お前、何を、知っている?」  ハオスとは対照的な低い声と、静かでユックリな物言いだが片言でしか話せない「闇黒魔天王ザラーム」は、その巨体を活かして完全に俺を逃さない構えだ!  こいつらが今更俺と戦おうと考えていないのは分かっちゃいるが、それでも3人掛かりで、しかも必死の形相で詰め寄られれば危機感を抱いても仕方がないよな。 「お前ら、少しは話を……!」 「もう……あんた達。少しは落ち着きなってぇの」  いい加減俺もキレ掛けていたその時、3人を宥めに入ったのは四天王の中で唯一の女性である「陰影魔天王ウムブラ」だった。  彼女の格好は戦闘時の魔王リリアと同じくかなり刺激的な装束なのだが、それでもウムブラを見て照れるようなことがない理由……それは、彼女が男顔負けに筋肉質だからだ。  顔立ちは整っており、ピンク色の髪を無造作に短くしている処などは正しく男勝りと言って良い。  そしてその話し方もどこか粗暴で、彼女からは所謂「女性らしさ」を感じないんだよなぁ。 「し……しかし、ウムブラ!」 「しかしもカカシも無いよ。あんた達、こんな事が魔王様にバレて、ただで済むと思ってるのかい?」  仲裁に入ったウムブラに食って掛かろうとしたナダだったが、魔王リリアの名を出されてはぐうの音も出なかったのだろう、即座に閉口してしまっていた。  察するに、この行動を魔王リリアは知らないと言う事になる。 「だが、この男、来てから、魔王様、変」 「そ……そうなんだよ、くっそぅ! あの魔王様の気が和らぎ、どこか優しささえ感じられるんだぜ、ちくしょうが! こんな事はこの数百年、1回も無かったんだっつぅの!」  そして俺に向いていた矛先は一気にウムブラへと向かい、ハオスとザラームが対照的な二重奏で抗議の声を上げていた。  ハオスはともかく、ザラームは本当に騒がしくて煩いなぁ……。 「……ふん。そんな事も分からないなんてあんた等、魔王四天王失格だねぇ」  そんな2人……いや、声こそ挙げなかったがナダもこの2人と気持ちは同じなんだろう、この3人に向けてウムブラが鼻を鳴らして侮蔑の眼を向けていた。  その瞳には、本当にこの3人を見下していると言った挑戦的なものが秘められている。 「……どういう事で……あるか?」  そして3人の中で一番冷静であると思えるナダが、絞り出すようにウムブラへ質問を投げ掛ける。  如何に対等である四天王でも、その筆頭が格下に頭を下げるのはそれなりに思う処があるらしい。  もっとも、当のウムブラはそんな事なんて気にして無いんだろうけどな。 「……ふん。いいさ、教えてやるよ。でも、この勇者は魔王様に大事な用があってここへ来たんだ。これ以上、邪魔をするなんて出来ないだろう? ……こっちへ来な」  そう言うとウムブラは顎で行く先を示すとそちらの方へと歩き出し、他の3人もそれに従い去って行ったのだった。 「……何なんだよ……一体」  余りにも台風の様に騒ぎ立てるだけ騒いで去って行った4人のお陰で、俺にはこれまでのやり取りが殆ど頭に残っていなかった。  色々と聞き捨てならない言葉が飛び交っていたみたいだけど、ハッキリ言ってそんな事を気にする余裕さえなかったんだ。  どうにも釈然としない俺が1人ポツンと魔王城謁見の間に取り残されていると、部屋の側方にある扉が開きそこから魔王リリアが現れたんだ。 「ま……待たせてすまない、勇者! ……うん? どうかしたのか?」  早足で玉座に辿り着き腰を落ち着けたリリアだが、俺がどこか放心しているのを察してそう声を掛けて来た。 「うん……いや、何でもない……な」  四天王が一体何をしたかったのか全く理解出来ないまま、俺はリリアの問い掛けに答えていた。明確に答えようと思わないでもないが、俺自身が状況を理解出来ていないんだから仕方がない。 「そう……か? ならば、良いのだ。それで、今日来た用向きはやはり……」  俺が意識を切り替えたように、リリアも気持ちを入れ替えて俺に対したみたいだ。  彼女も早速本題に入るよう促してきた。 「ああ、昨日“通信石”でも話したように、今日話したいのは聖霊ヴィス様についてだ」  昨日俺が魔王リリアと会話をし確認した内容……この話は、それについての前置きと言った処だ。 「この世界を統べる聖霊ヴィス様は、お前たちに多くの助言や奇跡を齎した。……それには間違いないよな?」  旅の途中から殆ど姿を現さなくなった人界の聖霊アレティ様とは違い、その妹君でもあられるこの世界の聖霊ヴィス様は、良くリリアを導き助力したとの事だった。  今更その事を確かめる必要なんて無かったけど、ここから先が重要な話なんだ。 「……ああ、間違いない。何度も聖霊様には相談に乗って貰ったからな」  ユックリと頷いて、彼女が明確に肯定した。……でもまぁ、何だか羨ましいよなぁ。 「そんな聖霊ヴィス様から、お前は『レベル』の事を聞かされた事は無かったんだな?」  リリアは再び、深く確りと首を首肯した。  その眼は真剣で口は真一文字に引き締まっており、どこか緊張感を湛えている。  そう……この話の肝はここにある。  魔王リリアが万全の信頼を置く聖霊ヴィス様であるにも関わらず、こんな大事な事を彼女に伝えていないのだ。  もしも事前に「人族の持つレベル」と言うシステムの事を魔族たちが知っていたなら、きっと戦い方が変わっていた事だろう。  そうなれば、もしかすれば俺たちはかなり早い段階でやられていたかも知れないんだ。  そうなっていたなら、死なずに済んだ魔族も少なくない。  魔族にも家族があり、大事な者や守りたい人がいただろう。……今なら、それを理解出来る。  若い頃は我武者羅で必死に戦い、魔族の事までは考えられなかった。  もしかすれば俺は、自分たちの事さえ考えていなかったかも知れない。  でも、今は違う。  魔族側の事を人族の事と同様に考えているし、今は出来るだけこの2つの世界を守りたい。  とにかく聖霊ヴィス様の行為は、下手をすれば魔族に対する裏切り行為と捉えられない事も無いんだ。  だからこそリリアは真剣な表情を浮かべているし、俺も下手な事は聞けないって気持ちがある。  無闇に魔王リリアと聖霊ヴィス様との関係を拗らせる必要なんて無いからな。 「ゆ……勇者よ。その『レベル』とは一体なんなのだ? それは、人族にとっても魔族にとっても重要な事なのか?」  成長し鍛錬すればそれだけ強くなる魔族。  それだけのポテンシャルをその肉体に秘めているし、人族より遥かに長い寿命を持っている彼らは、圧倒的に長い期間で肉体を鍛える事が可能だ。  それを考えれば、聖霊ヴィス様が魔族に「レベル」と言うシステムを与えなかった事にも納得は出来るんだが。 「ああ……。来るべき『異界族』との戦いには人族魔族の能力向上は勿論だが、それに加えて魔族には『レベル』を習得して貰いたいんだ。……勿論、それが可能だったなら……なんだがな」  そして俺は、いよいよ話の核心を彼女へ打ち明けたんだ。
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