ラッキー・アクシデント!?

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ラッキー・アクシデント!?

 俺と魔王リリアは、迫りくるデビルコンガの群れを次々と倒していった。  ハッキリ言ってこいつらは、俺たちを相手にするには役不足だ。  面倒くさい数ではあるが、俺たちが奴らに害されるなんてあり得ない。 「はぁっ!」  そんな中でリリアは、まるで踊るように……舞っているみたいに次々と巨猿を倒してゆく。その姿は可憐で優雅なんだが、どこか楽しんでいる節も伺えた。 「おい、リリア。あんまり気を抜いた事をするなよ?」  そんな彼女に向けて、俺は必要ないと思いながらも注意を促していたんだ。  彼女にしてそんな事はあり得ないと重々分かっちゃいるんだが、やっぱり戦闘中に気を緩めるってのは命に関わる場合がある。  俺の場合はそんな戦いばっかりだったから、ついつい神経質になっちまうのかも知れないが。 「ああ、分かっている。でも、今回は心配無用だ」  そんな俺の忠告を確りと聞きながらも、リリアはやはり楽し気に怪物たちの間をすり抜け、そして彼女が通った後には血に塗れた魔物たちが積み重なっていったんだ。  俺の方もそれなりにデビルコンガを倒しながら、美しく舞い踊るリリアの姿に見とれていた。  可愛らしいワンピースを纏い戦うその姿は麗しく、無駄のない動きも相まってまるで草原を駆けまわっている少女の様だ。  もっとも今のこの場は岩がゴロゴロとした山肌を露わとし、魔獣野獣が闊歩する死の山な訳だけどな。  それでも俺には、彼女の背後に花畑が見える錯覚を覚えるほどだったんだ。  怪物たちにとっては死の舞を踊るリリアによって、デビルコンガの大半は倒されてしまった。 「……ったく。ほっとんど1人で倒していたぞ」  無数の屍が転がる様を見ながら、俺は呆れたようにリリアの方を見やった。  そんな彼女には俺の声など聞こえていないのか、満面の笑みでこちらを向いている。  こんな嬉しそうな笑顔を向けられては、これ以上何も小言なんて言える訳がない。 「すまんな、勇者。こんなに楽しい戦闘は初めてで、つい羽目を外してしまった」  そう謝罪するリリアだけど、きっと反省なんて殆どしてないだろうなぁ……。  でもまぁ、無事に倒し切る事が出来たんだから、良しとするか。  ……なぁんて考えていたら。 「……っ! リリアッ!」  俺は思わず、彼女に向けて叫んでいた!   折り重なり無数に倒れる巨猿の1体……リリアの足元のデビルコンガが、ピクリと動きを見せたからだ!  俺が叫ぶのと、リリアの足首が掴まれるのは殆ど同時だった! 「きゃああぁぁっ!」  その姿と相まって、まるで少女みたいな悲鳴を上げたリリアは勢いよく立ち上がったデビルコンガによって一気に持ち上げられ、逆さ吊りにされちまっていた!  ―――普段のリリアならば、そんなアクシデントでもきっと苦も無く対処出来ていただろう……。  ―――魔界に敵なしの魔王なんだ。手負いのデビルコンガなんて、逆さまになったって腰にした細剣で一刀両断出来ただろう……。  ―――勿論その場合、自分の艶姿なんて気にしなければ……となる訳だが。 「リリ……ッ!? ……くっ!」 「み……見るなっ! 見ないでくれ、勇者!」  不意を突かれたリリアは一気に逆さ吊りとなった。  そしてその格好が仇となり、反撃出来ないでいたんだ!  そして彼女に言われるまでもなく、俺もリリアの方を直視出来ないでいた!  何故ならば今の彼女は……スカートが完全にまくれ、下着が露わとなっていたからだ!  戦闘用の装備や衣服なら、きっとこんな事にはならなかっただろう。  そして普段の武器ならば、巨猿を仕留め損ねると言った事も無かった筈だ。  これはそう……不幸な出来事が折り重なった結果……と言える。  逆さまになりスカートを手で押さえ反撃さえままならないリリアは、それでも器用に巨猿の攻撃を躱している。  デビルコンガも、片手では如何に捉えたリリアと言えども攻撃を当てる事すら適わないみたいだ。  しかし……意外だった。  まさか……リリアが……ピンク……。  いやいや、そんな事を考えている場合じゃあないな!   今の状況も、そう長くは続かない筈だからだ。  何とか空いた手でリリアを掴もうとしていたデビルコンガだが、どうやらそれに諦めた様だ。  リリアを持つ手で振りかぶると、そのまま彼女を叩きつけようと言う動きに出たんだ!   普段の彼女ならば以下略。 「……くぅっ!」  強烈に打ち付けられようとしていたリリアを、俺は間一髪滑り込んでその身で受け止めた!   鎧の上からでは優しく……とはいかないだろうけれど、無防備に岩肌へと振り下ろされるよりは断然良いだろう。  それに俺の技量なら、硬い防具の上からであっても出来る限り痛みを伴わない受け止め方が出来るからな。 「す……すまない、勇者」  抱きとめた魔王リリアは、再び頬を赤らめてそう口にした。 「お……おう」  そんな愛らしいリリアに動揺しながらも、俺はリリアの足をつかんで離さない巨猿の腕を切断した。 「ガ……ガアッ!」  激痛にのたうち回る大猿を、リリアをゆっくりと地面に立たせた俺は即座に斬り伏せ息の根を止めた。  周囲には再び静寂が訪れ、気配を探っても俺たち以外で動くものなんて何もいなかった。  これで本当に、この戦闘は終わりを告げたんだ。 「……すまなかった、勇者。どうやら私は、どこか気が緩んでいた様だ……」  先ほどとは違い、深刻な表情で俯くリリアは元気がなくしょげ返ってるようだ。  彼女の立場、そしてその地位を考えれば、先ほどの醜態は落ち込んでも仕方がないものと言えるからな。 「……いや、誰にでもミスってのはあるからな。あんまり気にする……」 「……見た……のか?」  しおらしい彼女に慰めの台詞を投げ掛けようとして、俺の言葉は途中でリリアに遮られた。 「……は?」  最初俺は、彼女が何を言っているのか分からなかった……んだが。 「……見たのか?」  ズイッと俺の方へと詰め寄り、リリアは上目遣いにジトっとした視線を向けて来た。  何だか訳の分からない気迫に、俺はじりっと後退るしか出来ずにいたんだ。  彼女は……何を言っているんだ?  リリアは俺に、何を見たと……あっ!  そこまで考えて、俺はさっきの光景を思い出していた。  ―――逆さまになった……リリア。  ―――そして捲れる……スカート。  ―――それを両手で抑え必死に訴える……リリア。  そう…‥俺は意図せずして、リリアのスカートの中を見た事になる!   彼女は、その事を問い質しているんだ!  そして、そこで問題となるのは!  ―――この場合、どう答えれば正解なんだ!? 「どう……なのだ、勇者? 見た……のか?」  不思議な話、詰め寄って来るリリアの方が頬を真っ赤にしてどこか苦しそうだ。  いや……これは照れて……照れ過ぎているのか!?  顔をこれ以上ないほど紅潮させた美女に詰め寄られるなんてシチュエーション、俺の人生には当然の事ながら一度としてなかった訳だ。  そしてその原因が、彼女のパ……パ……パン……。  ともかく、リリアを辱める様な事をしてしまったと言う話だ!  そんな状況で、一体俺は何と答えるのが正解なのか分からない。 「見……見え……」 「……見え……?」  だがしかし、何も答えないと言う選択肢も無い!   ここは一つ、見えてしまった事を平謝りするしかない! 「す……すまん! 実は、見えてしまったんだ! でも信じてくれ! 決してわざとではないんだ!」  とにかく、女性が辱めを受けて怒っている!   なら、俺に出来る事は誠心誠意を込めて謝るしかない!  俺はその場に手と膝を付き、深々と頭を下げたんだ。 「と……突然の事だったんで、すぐに目を逸らすことが出来なかったんだ! お前の事も心配だったしな! だからその……」 「……変じゃなかったか?」  俺が必死で謝罪の言葉を繰り返していたところで、リリアは何だか変な事を聞いて来た。  その声音は怒気を孕んではおらず、それどころか俺を探るみたいな声をしていた。  不思議に思った俺がゆっくりと顔を上げると、どこか切羽詰まったと言う表情で彼女は俺の方を見ている。  ……んん? なんでリリアがそんな顔をしているんだ? 「え……と……。何……?」 「だからその……おかしくなかったかと聞いているのだ」  俺には彼女が一体何を口走っているのか、全く理解出来なかった。  リリアは一体、何がおかしかったか聞いているのだろうか?  ただ、ここで一生懸命考えてもどうせ答えなんて出ない。  あの一連のやり取りの中で、おかしい事なんて何一つなかったと判断した俺は。 「あ……ああ。おかしい所は何もなかったが……」  素直に感想を口にした。  でも、果たしてこれで良かったのかどうか……。 「……そうか。なら、もう良い」  でも、どうやらそれは正解だったようだ。  それが証拠に、リリアの発する気配がどこか和らいでいるのを感じたんだ。  これは間違いなく、怒っている雰囲気じゃあない。 「……そうか?」  何がないやら分からないが、どうやらリリアは納得してしまったようだ。  そして俺はと言えば、納得は出来なかったがこれ以上この話題を引き延ばすと言う愚を起こさない事に注意していた。  ……その結果。 「ああ、良い。それよりも、先を急ごう」  未だ頬の赤いリリアだが、さっきまでと変わらない笑みを浮かべ、俺の手を取って歩き出したんだ。  何が何だか分からない状況だが、俺はなすが儘にリリアに連れられて先へと進む事になった。
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