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力比べ
俺の話したことは、マルシャンと打ち合わせたものだ。何とか自然にメニーナたちを打ち解けさせる苦肉の策だったんだが……。
どうやら、呑みながら考えたのが不味かったかも知れない。俺の発言で、俄かにクリークたちが色めき立ったんだ。
「こ……こんな子供を先生が認めただって!?」
一番驚いているのは、誰あろうクリークだった。まぁ最もメニーナに対抗心を抱いていたんだから、その気持ちも分からないではないか。
「だから、子供じゃないって言ってるでしょっ!」
そしてまた、さっきの口論が再燃しようとしていたんだ。
まぁ、この件に関しては落としどころが無いと言えば無いんだよなぁ……。
なんせクリークたちから見ればメニーナたちは自分たちよりも年下に見えるだろうし、メニーナにしてみればこの場の誰よりも……俺よりも年上な訳だし。
普段は子供って部分を前面に押し出してくるメニーナだけど、やっぱり明らかに「子供」なクリークたちに指摘されると腑に落ちないんだろう。
もっとも、引っ掛かっているのはメニーナだけでパルネやルルディアは全く気にしていないんだけどな。
「で……でも、こんなに幼いのに先生が認めるだなんて……驚きです」
クリークの気持ちはイルマも同様みたいだ。ただそこには驚嘆の他にも、どこか嫉妬や悔しさが含まれている。
認めたくないけど認めざるを得ない……ってところだろうか。
それを知った時、俺はクリークたちの意地やらプライドを軽く見積もってしまっていた事を痛感したんだ。
いや、クリークやソルシエ辺りならまだ分かるんだけど、まさかイルマまでそんな感情に捉われるとはなぁ。
「クリーク、イルマ、ソルシエ、ダレン。メニーナたちは……強いぞ」
でも、その事を今更ぼかしても仕方がない。いずれはその事実に直面するだろうし、突然そんな現実を突きつけられるよりかは事前に知っている方が良いだろう。
俺からハッキリと明言されて、クリークたちは一様に項垂れ口を噤んでしまった。さっきまでの威勢は何処にもなくなり、まるでお通夜のように静まり返っている。
「でもな、彼女達は冒険にまだまだ不慣れなんだ。強いと言っても個々の力だけで、連携や共闘には全く精通していない」
ただ、このまま放置しておいて良い訳でもない。打ちひしがれてしまったなら、そこから立ち上がる為の切っ掛けを与えてやれば良いだけの話だしな。
俺が口を開くと、俯き加減だった4人がゆっくりとその顔を上げる。
「それに対して、お前たちは連携を確りと鍛えて来た。そしてパーティで大事なのは……」
「パーティレベルだっ!」
俺がまだ話してるってのに、一気に復活したクリークが俺の台詞を横取りして叫んだんだ。それに呼応するようにイルマ、ソルシエ、ダレンも強く頷き応える。
実際、個の強さなんてどれだけ極めても限界がすぐにやって来る。出来る事は少ない上に、出来ない事に悩まされ続けるんだ。
その点、仲間と力を合わせれば可能性は無限と言っても良い。自分の苦手な部分をフォローして貰えるだけじゃあなく、相乗効果だって期待出来るからな。
個々で鍛える事は必須だけど、それだけが全てじゃあないのも事実なんだ。それが「パーティレベル」を上げると言う事でもある。
その事をこれまでの冒険で実感して来たんだろう、クリークたちの表情には活力が戻って来ていた。
でも、それだけじゃあ不十分だ。
個として強いメニーナたちにも、パーティとして当たれば更にその強さを上回る事が出来ると明確に知って貰う必要がある。
それがクリークたちの為でもあり、何よりもメニーナたちの為になるからな。
「そう言えばこの時期は、この集落周辺に『ジャイアントアント』が多く出没するんじゃないのか?」
「そうよ。だから私たちはここで、そのジャイアントアントを中心に討伐クエストを熟してるの」
「もう随分と倒すのにも慣れてきましたので、先日から巣の攻略に乗り出しているのですが、これが中々……」
ふと浮かんだ俺の疑問にソルシエがぶっきら棒に応え、ダレンがタハハと零しそうな笑顔で申し訳なさそうに話してくれた。
「ほう……。やるじゃないか」
それに俺は、決してお世辞ではない感想を口にしていたんだ。
巨蟻族は、その名の通り巨大なアリだ。その大きさは、子牛や仔馬程はあるだろうか。
アリってのはかなり力が強い昆虫で、魔獣となったジャイアントアントもその特性を備えている。と言っても、自分の身体の数十倍にも上る獲物や物体を運ぶとまではいかないけどな。
それでも、自分より遥かに大きな牛や馬、熊なんかは軽々と運んで見せる。そしてその力から来る攻撃力は、かなり危険だと言って良い。体も硬い甲殻に覆われているし、鋭い牙も十分に厄介だ。
でも本当に脅威なのは、アリの習性そのままに集団で襲って来る事だろう。
かなり熟練の冒険者でも、この集団に襲われれば後れを取る事に疑いはない。
このアリに対するには、こちらも集団で当たらなければならないだろうな。
「でも、奴らの連携は異常だぜ。まるで意識が繋がっているのかってほど、上手い具合に攻めてきやがって、中々倒せねえんだ」
俺が褒めた事で少し気を良くしたのか、不満を漏らすクリークの顔はどこかにやけている。
「そうなんです。少し戦闘を長引かせてしまうと、次々と他の蟻が集まって来て……。簡単には奥にまで行けそうに無いんです」
そう語るイルマの顔は、クリークとは対照的に深刻なものだった。
戦闘中はパーティ全体……更に広範囲に意識を向けているイルマは、敵と一心不乱に戦っているクリークたちよりその難易度に頭を悩まさているんだろう。恐らくは、何度も撤退の指示を出して来たに違いない。
先に進みたいと逸る仲間を宥め賺してその場を後にするのは、多分戦うよりも骨が折れる事だろうなぁ。
ふと隣を見ると、話を聞いているメニーナは何やらウズウズしているみたいだ。気づけば、ルルディアも同じような顔をしている。
反対に、それを察しているパルネはどこか不安そうな表情を浮かべていた。彼女には、この後の展開が何となく分かっているんだろうな。
「それじゃあ、その巣穴のどこまで奥に行けるのかで競ってみるか?」
しかし、すまない……パルネよ。
この展開に持ち込もうと思ったのは俺で、それを止めるつもりも無いんだ。どこかでどちらが上なのかを……そして互いの力を認めさせる為にも、一度同じ条件で競わせるのが一番だった。
そして、このジャイアントアントは彼等彼女等の力を測るには持って来いの相手だ。……まぁ、最奥まで行っちまうとかなり厄介なんだが。
もっとも、今のこのメンバーで最深部まで進める事なんてまず……あり得ない。
それは、メニーナたちも例外じゃない。もしもメニーナ、パルネ、ルルディアがパーティとして立ち回っても、結果は同じだろう。
と言う事は、安心して送り出せるって事でもあるんだ。
「えぇっ!? いいのっ!?」
「い……いいんですか!?」
全く違う意味合いを込めて、全く同じ言葉を発したのはメニーナとイルマだった。勿論、メニーナは嬉々としてだしイルマは不安気に……である。
今のクリークたちでも手こずる様な難易度の高い巣穴なんだ。如何にメニーナ達でも、そう簡単に奥まで進んではいけないだろう。
それに今は手間取っているみたいだけど、クリークたちも直に攻略の糸口を見つけると考えていた。つまり、互角の勝負が期待出来るって事だ。
「……で……でも、危なく……ない?」
不安そうなのはパルネとダレンだった。この2人に共通する点は、質は違うけど同じように恐怖を感じているってところだろうな。
「まぁそこまで危険じゃないだろう。勿論、油断していると……死ぬけどな」
そんな2人に向けて、俺は怯えさせるようにそう答えたんだ。
巣穴の浅い階層ならば、そこまで危険になる事は無い。奥に進むにつれて蟻の数が多くなるけど、そう簡単にこいつ等が後れを取るとは考えにくいからな。
でも定番と言えば定番だけど、最奥部にはアリたちの女王が居座っている。
こいつだけは、その大きさも強さだって別格と言って良い存在だ。それにさえ気を付ければ、俺がいなくても命を落とすまでには至らないだろう。
と言うか、最奥まではまずいけないだろうけどな。
「無理に進もうと考えるなよ。自分の力量を認められない者は、この先も簡単に危機に陥るしアッサリと命を落とすだろう。それだけじゃあなく、仲間も危険に晒すって事を忘れない事だ。そうすれば、死ぬことは無い」
最後に俺は、それだけをクリークとメニーナに念を押すように告げたんだ。
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