無題

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無題

傍に見えた小さなマグカップに僕は目を奪われた。何気ないその、真っ赤な色をしたマグカップに、僕は唇を付けた。どうして、こんなにも自分がくだらなく思えるのか、分からなかった。見ている物はまるでつまらなかった。どんなに優れた名作と言えども、僕はもう、二次創作にしか、見えなかった。つまらないものが、同じような似た作品がまた、世界に溢れ、僕は屈辱感に苛まれながら、その薄汚れた賞の小説家の本を買った。成程、僕の神経を鼓舞す るかの様な文体は、僕が好きそうな話だった。だが、その小説は、金を出して買うほどの値打ちも無いツマラナイ代物だった。僕はもはや、テレビさえ見てない。漫画も小説も、もはやただの同じことの繰り返しだった。結末が気に食わないドラマを見て、反吐が出た。あんたの理想通りのシナリオ、世間的な一般常識の範疇を飛び越えない無難な線で作り上げたその文章は完全に闘う事を放棄した、寧ろ戦う怖さに恐れを成した小鹿と同じだった。まるで、刺激のない悪の美学とは、掛け離れたつまらない創作物に本当に僕は、ガッカリした。こんなものをこれからもこの作家は、金の為に描き続けるのかと想うと、僕は本当に歯痒くて、嫌気が刺した。熱くなったのは、もはや、誰の事も大切に思えなくなった、愚民と化した僕自身に他ならなかった。その作品に惚れたのも自分なら、その作品に影響されて、行った言動も全て、自らが撒いた種であり、誰の性にも、もはや出来ないのだ…。時代は繰り返さないで欲しい。僕が忘れたこと、大事にしたかった事、それすらも、忘れてしまったのだとしたら、僕は随分と穢れてしまった。それは、僕の良心が赦さなかった。消えないだろう、この痛みと悲しみのパラダイムは…。どこから来て、何処へ行くと言うのだろう?空はすっかり暮れてしまった。その夕焼けの鮮やかさに、僕は忘れては行けなかった、大切な事を懐古する。ここに君が居てくれる事が、何よりも大切で忘れてはならない事だった。その暮れなずむ夕焼けは、誰よりも美しかった筈だった。なんて空の色だろう…。その空の美しさに僕は時を忘れて魅入ってしまった。こんなに、悲しい夕日が有るなんて…息を呑み、絶句した。僕は勝てるだろうか…朽ち果てて、悲鳴を上げる体に鞭打ち、限界を迎えた僕の身体は、憔悴しきっており、終わる事の無い憎しみに絶え間ない絶叫がこだました。明日の糧すら、奪われるのだと云うなら、この世界に神はもはや居ない。
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