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『港町でカムバック』
『港町でカムバック』
「こわいんだ」
「えっ」
「だから、こわいんだ」
港の沈む夕陽に染まった端正な横顔を曇らせて彼はぽつりと言った。
昨日の夕方4時、
わたしと彼は竹原から出航した高速艇に乗り合わせた。
デッキで、爽やかな海風に吹かれながら、おだやかな瀬戸内の海を何も言わずにながめてた。
彼が沈黙をやぶる。
「どちらから?」
「東京」
「あなたは?」
「ロス」
「えっ」
「だからロサンジェルス」
「うそ」
「いやほんとなんだ」
「なんで、ここに?」
「気まぐれかな」
「ホント?」
「うそじゃない」
少し影のある口調で彼はわたしに答えた。
いろいろ聞かないほうがいいかもしてない。
わたしたちは、このあたりの蛸はおいしいのよ、とかたわいのない話をして過ごした・
やがて船はいくつかの小さな港に留まり、目的の「御手洗港」に着岸した。
5年ぶりか…。
もう帰らないと決めて飛び出したこの港町。
鼻の奥が少しツンとなった。
懐かしい香がする潮風が通り過ぎる。
わたしは、桟橋を出て、海沿いの道を左に歩いた。
彼も同じ方向。
少し歩いたところの海辺に小さな鳥居がある。
そこを右折して、小さな路地を入る。
すぐに、診療所のような建物。
わたしはその建物の玄関をくぐる。
彼も、わたしにつづく。
ここは昔診療所だったのをリノベーションして、今はゲストハウスになっている。
ゲストハウスとは、安価な宿泊施設。
外人のツーリストやサイクリスト、バックパッカーなど、旅なれたツーリストに人気が高い宿だ。
個室もあるが、ドミトリーと呼ばれる相部屋が多い。
男女が同室の場合もあるので、はじめての人はけっこう驚く。
オーナーの個性がかなり反映するので、それぞれが、違った魅力を醸し出している。
ここ「GUESTHOUSE醫(くすき)」もそんな宿だ。
古い格子戸の玄関を開ける。
黒光する廊下。
誰も出てこない。
ちょと大きな声で「こんにちわ~」と叫んでみる。
しばらくすると、バタバタとスリッパの音を響かせながら、人の良さそうなオーナーらしき人が
出迎えてくれた。
「いらっしゃ~い」。
のどかだ。
昨日までいた東京の言葉と温度が違う。
大野というオーナーは簡単にゲストハウスの使い方を説明してくれて、チェックインの手続きをしてくれた。
同じ宿に泊まることになった彼、彼が「食事は出るのですか?」と尋ねる。
「いえ、うちは食事の提供はしないので…、ああ、夜はバーを開きますよ」と大野オーナー。
「へえ、どこかいいお店とかないですか?」
「う~、これといってないですねぇ。1泊4万円の宿ならありますが、そうですね、、桟橋の前の大衆食堂とお好み焼き屋さんが
あるかなぁ…、お好み焼き屋さんはけっこうおいしいと評判ですよ」。
ちょと残念そうな顔をして彼が「ありがとうございます」と丁寧に答える。
*ご感想・コメントなどいただければスーパー嬉しいです。
*コロナ大変ですね?
厳しいことになっています。
いろいろ考えさせられます。
こんな時だからこそ、希望が持てるコトを始めたいと思いまして、
FBに
〇「電子書籍を出版しよう」
https://www.facebook.com/groups/806001956577343/?ref=bookmarks
とういうコミュニティを開設しました。
お気軽にあそびにいらしてください。
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