461人が本棚に入れています
本棚に追加
小腹も空いているし、せっかくだから食事もしていくことにした。カフェならサンドイッチとかパンケーキが主流だろうか。だけど、このマスターからパンケーキが出てくるとは想像し難い。食事のメニューに視線を落とすと、思いもよらない品が書かれていた。
『……ナシゴレン…』
なぜ?店内はオリエンタルな雰囲気でもない。どちらかというと、モダンなイメージだ。
「ナシゴレン上手いよ。これね、コイツがインドネシアに三年間住んでて覚えた味だから、本格的。食べてみて、おすすめ」
カウンターの男性客が私の方を向き、熱弁してくれた。どうやらマスターとは友達のようだ。そう言われれば、頼まない訳にはいかないだろう。
お礼を言い、ナシゴレンとアイスコーヒーを注文した。
「本当に美味しいから。あとね、その下に書いてあるカレーも最高。あとね、こだわりの手ごねハンバーグ。これ絶品」
止まらない解説に、思わず笑ってしまった。
『すごく詳しいですね。常連さんですか?』
「常連ていうかー」
「腐れ縁なんです」
マスターがナシゴレンを持ってやってきた。
『腐れ縁…』
「えぇ、もう長い付き合いになります」
コトンと目の前に置かれたお皿から、スパイスの特有の香りが漂ってきた。胃が音を立てて動き出す。スプーンで掬ってひと口。これまで食べた中で断トツ一位の味だった。
『美味しい!鼻に抜けるスパイスの香りも全然違いますね』
マスターは嬉しそうに笑っていた。私はひと口ひと口味わいながらペロリと平らげる。
『インドネシアって、留学とかですか?』
「いえ、前職の関係で」
どこかの商社の駐在だろうか。
最初のコメントを投稿しよう!