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「先生だよ。ティーチャー。コイツね、こんな顔して小学校の先生やってたの。それで向こうの日本人学校で教えてたんだよなー」
「こんな顔してって…相変わらず失礼な奴だな」
「それで、向こうの飯にハマっちゃって、今はこうしてカフェのマスターやってるの」
何でも教えてくれるお友達。
『へぇ、日本人学校の先生!凄い!」
先生だったと聞いて、表の黒板に納得した。しかし、ほんと、人は見かけによらない。そんな事言ったら失礼だから言わないけれど。
「凄いものでもないですけどね。はい、アイスコーヒー」
この店のアイスコーヒーはゆっくりと水出しされたもの。豆の形をした氷もアイスコーヒーで作られているといい、時間が経っても薄まることなく美味しいコーヒーを飲んでもらいたいというマスターの想いが込められている。
その後も三人での会話は弾み、滞在していた一時間でだいぶマスターについて詳しくなった気がする。実家をリノベーションしてカフェにしたこと。結婚はしていないということ。マスターはお店の二階に一人で住んでいることなどなど。情報提供者はほとんどお友達だけど。
ふと外に目をやると、雨は上がり陽が差していた。
『そろそろ帰りますね』
「あ、待って。よければこれ、書いて下さい」
渡された大学ノートとボールペン。中を開くと、お店の感想や落書き、お礼などたくさんの文字が並んでいた。これは、マスターとお客さんのコミュニケーションツールなのだろう。私も一筆書かせてもらうことにした。
『マスター、お名前は?』
「矢野と言います」
マスターは丁寧に名刺を差し出した。
『…矢野…朔太郎さん』
「はい、矢野です。お名前は?」
『あ、星と言います。星あかりです』
「星ちゃんかー!芸能人みたいな名前でかわいいね。俺は暁斗!よろしく」
友好の証としてお友達の暁斗さんから差し出された右手を握り握手する。
『はい、よろしくお願いします』
“マスターへ
美味しいコーヒーとナシゴレンをご馳走様でした。トリコになっちゃいそうです。こんなに素敵なお店があるなんて、もっと早く気付いていたら!今度はティータイム時にお茶しにきたいと思います。ありがとうございました。2021年6月2日 星”
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