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花火は三人分を指定された。マスターと暁斗さんと、私の分。テンションが上がったのは言うまでもない。手持ち花火のセットのほかに、線香花火を少し多めに買った。対決したら楽しいと思ったから。
待ち合わせは、ビーチへ続く階段前に午後8時。
海遊びって言ったから、昼間からだと思っていたのに、「昼間なんて暑いし、まだ海開き前だし、夜にしよ」という暁斗さんの一言で決まった。それなのに、
『え…暁斗さん来れないんですか?!』
待ち合わせ場所に一人で現れたマスターから聞かされた。と、いうことは、マスターと二人きり。
驚く私の元に、狙ったように《決めろ!お礼はクッキー五枚でいいよ♡》と暁斗さんからメッセージが届くいた。
やっぱり。これはガッツポーズをしていいのか、分からない。由美さん問題は解決していないし、”気になる子”も気になる。
「二人でいっか。行こ」
マスターは私が持っていた花火を持ち、砂浜に降りて行った。その少し後ろを急いでついていく。
マスターの私服を初めて見た。シンプルなTシャツにハーフパンツ。普段はきっちりとシャツを着ているから、そのギャップにときめいた。
『マスター』
「違う」
『え?』
「今はマスターじゃないから」
さて、どう呼ぶ?そんな問いが振り返ったマスターからされているようだ。
『えっと…え、や…矢野さん…?』
「他人行儀だね」
『え…じゃあ…朔…太郎さん?』
「長いでしょ。朔でいいよ」
『…朔…さん?』
「そうね」
良くできました、と朔さんの手が思い切り頭に乗った。
どんどん火をつけて、花火を楽しむ。だって三人分だから。空中に円を描いたり、文字を書いたり。”スキ”とかベタな事をやってみたり。もちろん気づかれないようにだけど。
「花火とか久しぶり」
朔さんが砂浜にベタっと胡座をかいて座った。その斜め前に私は座る。約束通り、朔さんはアイスコーヒーをつくってきてくれた。
『あーやっぱり美味しい!クッキー食べます?』
「じゃあいただこうかな」
『今日は普通のやつにしたんです。アイシングばっかりだと、いくら甘さ控えめでも男の人は辛いでしょ?』
朔さんは否定も肯定もせず、口を動かした。
仕事の話をしたり、イベントに向けての話をしたり、朔さんはさすが元教師というか、じっくりと耳を傾けてくれた。
『色々聞いてもらっちゃいましたね』
「いいんじゃない?楽しそうにしてるから俺も楽しい」
あまりに真っ直ぐ私を見るから、狼狽た。
『せ、線香花火しましょうか』
「いいね、勝負?」
『のぞむところです』
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