風と共に去ぬ

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 そうしてようやく道を抜けていくと、見慣れた建物が視界に入ってきた。そうだ、あれは俺が最初に辿り着いた駅だ。無人駅だから頼ることはできないけれど、逆に言えば、線路に沿って進めば、俺は次の駅に辿り着ける。この村から出られるんだ!!  まさに絶望の淵に落ちてきた一つの希望。俺はそれを離さんと、一気に駆け続けようとしたが、現実はあまりにも無慈悲で。駅からその先の道は、無数のツタが視界を塞ぐように絡み合ってはそびえ立っていた。まるで、最初からこの先に道など無かったのだと、俺に訴えかけるように。  その瞬間、俺は全てに絶望し、同時に、全てを失ったあの日のことを思い出していた。そうだ、俺はいつも理不尽に振り回されては、今まで積み上げてきたものを奪い去られる。あの日、辞職を突きつけられた時点で、俺の人生は終わっていたも同然だったのだ。  神様は、一体俺の何を見てきたって言うんだ?  いや、そもそも、神様なんて、本当にいるのか? 「風が嘆き、叫ばれておられる。風に逆らおうとするなど、愚かなことを」  気づいたら、俺は何者かに首根っこを掴まれていた。後ろからわらわらと、何人もの人々が近づいてくるのがわかる。 「この村は、風と共に生き、風と共に去ぬ。最初にそうお伝えしましたよね?」  後ろからすぐ聞こえてきたのは、あの老人の声だった。皮肉にも、今の俺は、体の中に風が吹き抜けるが如く冷えた恐怖を感じていた。老人は、最早正気じゃない。それが声色だけで伝わってきたから。 「風が貴方様をお認めになったから、私たちは親切に受け入れてやったのですよ。それなのに、恩を仇で返すような真似を……」 「お、恩ってなんだ!! 俺は最初からこの村に住みてえなんて一つも思ってなかった!! たまたま風が強く吹いていただけだ!! 都合よく解釈して勝手にいかれてんのはてめえらだろ!!」  俺は恐怖を紛らわすかのようにそう叫ぶが、最早この場に、俺の言葉に耳を傾ける者などいるはずが無かった。 「こいつ、まだやがるよ。ダメだねえ、今時の若いやつは」 「ちゃんと1回教育してやんねえと分からないか。面倒なことさせやがって。最初から風のご慈悲に素直に従ってりゃ良かったんだ」  振り向いた瞬間、俺は予想以上にこの場が狂っていることに気づいた。村人たちが、鍬や斧、棍棒などを各々持って、こちらを見下ろしていたのだ。その目は、俺を人間として見ていない。ただ感情の無い黒い瞳二つが、こちらに向け突きつけられている。  殺される……!! 「風が招き入れた貴方様を、我々が逃すはずがないでしょう。風に呼ばれて生き長らえたのなら、風と共に消えなさい」  その後は、悲鳴がただ一つ、この村に響いていくだけだった。しばらく吹き荒れていた風は、何の因果だろうか。その悲鳴が消え去ると、途端に穏やかになり、再び村の中を過ぎ去っていくのだった。
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