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公衆電話。電話ボックス。いくつか呼ばれ方はあるだろうけど、携帯電話が登場する以前では、外で連絡を取る方法の一つがこれだった。
所々に設置されたその箱の中には電話があって、一秒何円かの料金を支払うことで誰でも使える連絡手段。
外にあって、誰でも使えるっていうことが重要だよね。
小さな子どもでも、大きな大人でも、腰の曲がった老人でも。とりあえず小銭とかけたい電話番号さえ分かっていれば発信できる。
緊急の時はここって、番号が書かれたメモと十円玉が数枚入った巾着を、俺は親から持たされたよ。使ったことはないけどね。
例えば迷子になったとき。後ろから怪しい人に付きまとわれているとき。誰かが道端で倒れているとき。明らかに重たい荷物を拾ってしまったとき。
助けを呼ぼうとしたときに、周りには誰もいない。交番もない。
そんなとき、そんな箱の中にある電話は重要だと思うんだ。
どうすればいいかヒントを、アドバイスをくれる。パトカーや救急車、消防車を呼び出せる。もしかしたら、ただの時間稼ぎにしかならないかもね。
でも、そこに電話が入った箱が置かれていることで安心できるって時もあったと思うんだ。
君たちはどうだった?
手元にスマホも、PHSも、ポケベルもないとき、遠くの誰かに助けを呼べる。安心、できるだろ?
今じゃすっかり消えてしまったその連絡手段。時代遅れだと思う?
時代遅れ、だろうね。
でも忘れないで。
時代に遅れる前は、確かにその箱は俺たちを助けてくれた。助けてくれていたんだ。
俺たちの世代、いや、俺たち同級生の間だけなのかな。それを『電話箱』って呼んでいたのは。
多分、『電話ボックス』から『電話箱』になっただけだと思うんだけど。ほら、覚えてる? 『洗剤』を『洗浄液』って俺たち言っていただろ? あれと同じやつだよ、きっと。
ふふっ。変なこと考えるものだよね、子どもって。
当時の俺たちは電話線とか電波とかの仕組みやシステムなんてものが全く理解できていなかった。いや、今もか。
大事なのは使えること。なんかわかんないけど、便利に使える何かがあるっていうこと。
糸電話なんて目じゃないすごくハイテクな電話がある! そう思ってたよ、小学生の俺。
どうせみんなも同じだろ?
そんな電話箱。
いつの間にか数が減らされて、いつの間にか姿を見なくなった、あの箱。どれだけ残っていたのかは知らないけど、ちょうど俺が高校生の頃に噂を聞いたんだ。
「あの電話ボックスをある方法で使うと、おもしろいことが起こるんだよ」
誰かが言った『あの』が何処の何の『あの』なのか、はっきりとは言えないな。
でも、自分の頭の中で『あの』がしっかりイメージできてしまうんだ。
家の近所にある? 学校の近くにある? いつも利用する店の横にある? すぐ近くに黒い犬が飼われてる家がある?
自分の知ってる電話ボックス。それが『あの電話ボックス』というような言い方だった。
もちろん俺の頭にも浮かんだ電話ボックスはあったよ。
ただ、おかしいんだよね。
ずっとあったはずの電話ボックスなんだけどさ、それまでそんな話聞いたことがないの。
高校生になったら急に聞こえだした噂話。で、卒業と同時に聞こえなくなった噂話。
そう。
この話は高校生の間だけの「ナイショの話」だったんだ。
高校生になったら前の高校生から引き継ぐ噂話。高校卒業と同時に次の新入生へと引き継がれる噂話。
それが、この「電話ボックス」っていう話だった。
俺たちでいう「電話箱」。
それは、こういう内容だった。
あの電話ボックスの中には、誰かの特別な話が入れられている。
新たに入れることもできるし、聴くこともできる。
ただ、それだけ。
それだけなのかって?
そうだよ? それだけ。
その電話ボックスは、誰かたちの特別な話が詰め込まれた「宝箱」なんだ。
まあ、まずは一つ、話を聴いてみてよ。
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