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受話器の向こうのコイバナシ
近所に古い公衆電話があるんです。見たことありますか? 公衆電話。
小銭かテレフォンカードを入れて、番号を押すんです。そうすると、相手に繋がるんです。
どこにでもありましたよね、公衆電話。
ただ、近所にある公衆電話はそれはそれは古くて、新しいデザインの硬貨が使えないんです。本当に古くて、番号を押すところが指で回すタイプの電話なんです。昔の黒電話とかがそのタイプですよ。
なんでまだ残っているんだろう。見た人のほとんどはそう言います。
近所の人は、残っているんだから残っているんだろう。そう言います。
結局、なんで残されているかわかんないんですよ。その公衆電話。
で、その公衆電話なんですけど。
変な噂があるんです。聞きたいですか?
いいですよ。別に秘密にするようなことでもありませんし。
その公衆電話はね。
誰かのコイバナ、恋話を聞くことができるんです。こっちからは声は届かない。だけど、受話器の向こうからの声は聞こえる。それは全部恋の話ばかり。
ね、不思議でしょ?
やり方は簡単。
まず、受話器を外してギザギザのついた十円玉、ギザ十を一枚入れる。一枚ですよ?
次に、番号をダイヤルする。「5187」。コイバナ(5187)、です。で、受話器を耳に当てる。それだけです。簡単でしょ?
そうすれば、その公衆電話の受話器からは誰かのコイバナが聞けるんです。
ただ、十円玉一枚じゃすぐに切れちゃう。だから続きが聞きたいなら、同じことを繰り返すんです。
切れそうだなっていう時に、ギザ十をもう一枚入れる。5187とダイヤルする。それをひたすら繰り返すんです。
ただ注意しなきゃいけないことは、こちらから話しかけないこと。それと、入れる十円玉はギザ十を一枚ずつだけ。
やり方を一つでも間違えると、その瞬間に電話は切れちゃいます。続きを聞きたいなら守らなきゃいけないし、もういいやってなったら途中でやめちゃえばいい。
ほら、簡単でしょ?
私も一回だけ聞いたことがあります。その公衆電話で、一回だけ。
聞きたいですか?
いいですよ。でも、秘密にしてくださいね。これは、誰かのコイバナなんですから。
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