受話器の向こうのコイバナシ

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「もしもし? これでいいのかな? 聞こえてますかぁ? いいのかな? えっと。×××にある公衆電話からかけてます。 今から、私の恋話をするんで、聞いてください。 先週、二つ上の学年に転校生がきたの。 知らないとこからの転校生で、おきれいな余所者だってすぐに学校のみんなの中で有名になった。 その人をわざわざ見に行く人もいたらしいけど、私は興味なかった。 だって余所者でしょ? 変な病気持ってるかもしれない。それに、田舎者って思われるかもしれないのがすごくイヤだった。 だから、私は友だちが行こうって言っても無視した。 先週の話ね」 「もしもし、聞こえますか? えっと、転校生の余所者先輩が先日来たって話、です。 えー、その先輩、すごくかっこよくて頭もよくて、優しい。って噂です。 私含めて地元の出身の子たちは余所者が苦手。だから興味もなかったし、そのままその人は勝手に卒業していくだろって思ってたの。 どんなに人気者でも、私にはただの余所者。早く出ていけばいいのにとか思ってた。 でもね、昨日のことだよ? 私、学校の帰りに変質者に遭ったの。急に後ろから近づいてきて、抱きついてきた。ああ、思い出すだけで恐いよ。 恐くて動けなくなっちゃってね、助けも呼べなくてガクガク震えるだけ。 その間にも、そいつ、私のセーラー服のリボンをほどいたりスカートの中に手を入れたりしようとするの。 ほんと、気持ち悪くて最悪」 「もしもし、聞こえてますか? 三回目になるけど、転校生の余所者先輩の話です。 私、変質者に遭って大ピンチ。 ああ、もうだめだって絶望してた時に、偶然にだよ? 偶然同じ道を使ってたらしいその先輩が角を曲がってきたの。 で、私と目が合った。 私、声も出せなかったけど必死で助けてって言ったつもり。多分、泣いてたと思う。 そしたらね。その先輩、何て言ってたのかな。方言訛りが凄すぎて全然わかんないんだけど、とにかく怒ってずんずんこっちに向かって来た。 変質者もヤバいと思ったらしくて逃げようとする。私の体をパッと放した瞬間に、先輩、その変質者にカバンを叩きつけた。痛い音がしたよ。 ほら。二つ上っていうと、受験生になるんだけどね。辞書やら参考書やらでカバンはパンパンなんだよね。 あはは。そりゃ痛いや」 「もしもし。聞いて、欲しいな。 私と先輩、付き合うことになりました。 噂に聞いてた先輩っていうのは、意地を張ってただけなんだって。勉強もスポーツも、普段はもっとぼさぼさの髪も服も、全部無理して頑張ってたこと。 ほんとは方言訛りがすごくて、小学生みたいに笑う男の子。でもね、そんなんで外に出たらバカにされる。バカにされたくないっていう一心で、慣れない標準語で話してたんだって。 私、先輩のこと余所者のくせにって思ってた。地元が田舎だって知ってるから、外から来る余所者は都会のお坊ちゃん。そう思い込んでたんだ。 でも、違った。 先輩は、私とおんなじように外にいる余所者に怯えて強がってたんだ。 ほんとの先輩はさ。子どもっぽくて、正義感が強い男の子。 私、子どもっぽい人に弱いんだよね。変質者を退治して、私に大丈夫か? 怖かったよな。そう言って泣いてたのは先輩なの。もちろん、私もね。 一緒になって泣いちゃった。 そういう人、私好きだな」 「もしもし。先輩が、今日学校を卒業しました。 無事に内定ももらって春から社会人。ここ、×××で働くそうだよ。 なんでって聞いたらね。私と一緒にいたいからだって。 私のためにこの場所で生きていくって決めたんだって。 彼がくれた学ランの第二ボタン。今、私の手の中にあるんだ。それを渡しながらね、彼、こう言ったの。 君が卒業するまで待つけん、それから僕のとこにきんしゃい。自分のとこにお嫁に来てくれ、だって。 だから、私、学校を卒業したら、彼と、結婚、します。 まだ、できないけど。彼、待っててくれるって。その時までに、指輪はちゃんと用意するから、今はこのボタンで許してねって。 私、すごく今幸せだよ。彼がこの街に来てくれて、本当に良かったと思ってる」 「もしもし。まだこの電話、使えてるのかな? ずいぶん前に、先輩と結婚するって報告したんだけど、まだ覚えてる人いたりするかな。 えっと、二つ上の先輩。元、だね。その彼との約束で、今日! 卒業と同時に結婚します。しちゃいます! 婚姻届もしっかり書いてあるんだ。あとは、卒業式が終わった後そのまま二人で役所に提出するだけ。 これで、私と彼のコイバナは終わり。 私たち、ちゃんと二人で幸せになるよ。 なれると思う! きっと今日は最高の日になる! 私の話、聞いてくれてありがと。 聞いてくれてる人がいたのかはわかんないけど、これだけ伝えたかったの。 じゃあね」
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