第21章 見ないふりはできない

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テーブルの上の彼女の組んだ手のひらが、言葉じゃ追いつかないことを何とか表現しようとしてかもどかしく動いて揉み絞られた。 「今ならまだ間に合う。眞珂ちゃんは正直に、心のままに生きて。胸の奥に押し込めて見ないふりをしていれば。いつか消えてなくなるってのは無駄な希望的観測に過ぎないわ」 何の話をしてるのか。 いつの間にか自分ごとになってる話の転換についていけず、妙に真剣味の詰まった彼女の言葉を脳内でただぼんやりと反芻していた。 澤野さんはむしろ淡々と、感情の抜け落ちたような声で事実を述べるといった調子でさらに付け加えた。 「…やり過ごして黙殺した思いはずっとそこに残ってて、気づかないうちに膨れ上がっていつかはそれに復讐される。そんなことになる前に認めちゃった方がいい。例えどんなに実現不可能で、荒唐無稽だって思えることでも。…無茶苦茶で無謀にしか見えない行動だって。それでも今のうちの方がまだみんな、傷が浅くて済むってことだってあるのよ」
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