(30)詩:エステル瑠璃 さま

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(30)詩:エステル瑠璃 さま

「わだつみ(海神)」 (詩集『見知らぬ恋人』より) 僕の お兄ちゃんは 飛行機乗りだ 東京帝国大学を 卒業した 僕の自慢の お兄ちゃんだ 背が 高く 白い海軍の制服が よく似合う ときどき帰ってくるたびに 美味しいものを 持って来てくれる 僕は まだ 尋常小学生 僕も 大きくなったら 飛行機乗りに なるんだ お兄ちゃんは 鹿児島の知覧基地に いる 手紙が たくさん来る ある日 ”アス シュツゲキ セイコウヲ イノッテ クダサイ” そう 書いた 電報が とどいた お兄ちゃんは いよいよ わだつみに なる でも なぜか お母さんも おねえさんも 泣いている なぜだろう その頃の僕は なにも わかっていなかった 次の日 どきどきしていた お兄ちゃん お兄ちゃん 心の中で 叫んだ お兄ちゃん
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