(30)詩:エステル瑠璃 さま

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お互いに なにも言えずに ただ ふたりで泣くだけ 夜 あなたは 私の肌に 頬ずりした 生きているのね あなたは 生きているのね もともと あまり喋らない あなたは 泣くだけ だった あなたは 東大を 卒業していた 新制学校の 英語の 教師になった 子供も 男の子 と 女の子が 産まれた それぞれ 結婚して また あなたと ふたりだけ 今でも ときどき 聞こえて くる あの 遠い声 あなたは 庭木の 手入れを している 私は お茶を 淹れて 縁側に 座る あなたからの 手紙は 私の宝物 あなたの 口からは 出てこない 言葉の花束 遠い日の 遠い声 あなたの 声
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