バッドラックガール

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 連れて行かれたのは住宅街の、少し奥に入った裏道をさらに横に入った狭い道だった。 「こっちだよ! 秘密基地みたいでしょ」  礼央くんの嬉しそうな声にあいまいに微笑みながら、本当に着いてきて良かったかな、と少し後悔する。こんな小さな子をダシに使って騙したり、なんてことはないだろうけど。 「ここ!」  細い道を抜けると生垣とくぐり戸がある。およそ人家とは思えない……どちらかと言うと、高級料亭と言われた方が納得がいく。 背をかがめてくぐり戸を抜けると、目の前には日本家屋があった。唐突に目の前に出てきたので、面食らった。 「玄関こっち!」  元気の良い声に背中を押され、正面玄関へと向かう。引き戸を開けるとかなり広い三和土があった。  礼央くんは靴を脱ぎ捨てると、「上がって!」と言って奥へと走っていこうとした。 「礼央、ちゃんと靴を揃えなさい」  パパさんの声にはっとした様子で振り向き、慌てて戻ってきて手を伸ばし、脱ぎ散らかした靴を揃えて隅に置いていた。ちゃんと躾けられていて、偉いなぁと思う。 「すみません、今スリッパを出しますので先に上がらせていただきます」  パパさんは私に断ると脱いだ靴を礼央くんの靴の横に置き、物入れからスリッパを出してきて置いてくれた。 「ありがとうございます」 「いえ、どうぞお上がりください」  恐縮しながら靴を脱ぎ、少し考えてから礼央くん達の靴があるのとは逆の隅に揃えて置く。スリッパはふかふかと柔らかく、薄手のストッキングの足を優しく包んでくれた。 「お姉さん、お茶飲みますか」 「あ、えっと」  気の利く子どもだな、と思いつつもここはなんと答えたものか。長居するつもりはないけれども、服のクリーニングが終わるまで、と言ったら少なく見積もっても一時間はかかるだろうから、お願いしたほうがいいのだろうか。でも、小さな子どもにお茶を淹れてもらうって……あ、ペットボトルのお茶かな。 「じゃあ、お願いします」 「礼央、お姉さんには先に着替えててもらうから居間で待ってて」 「はーい」 「すみませんが風呂場に来ていただけますか。着替えをご用意しますので、ちょっとお待ちください」
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