変わるとき

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 引っ越し業者が荷物を積み込むのに立ち合い、では現地でと挨拶をして私と先生は新しい事務所となるマンションに向かった。途中、例のスーパーに寄って大福を買い、ついでにオーナーである老夫婦にご挨拶をする。もうこちらに通うこともあまりないのかと思うと、寂しい気持ちになった。  電車に乗り、急行で三駅。駅から徒歩一分、目の前にそびえるマンションの三階に新しい事務所がある。 「えーと、こちらが合鍵になりますので持っていてください」  先生がキーホルダーから鍵を一つ外し、渡してくれた。ありがたくおし頂き、自分のキーホルダーに加える。 「下で業者の方を待ちますので、三原さんは中に入っていてください」 「わかりました」  先生が慌ただしく階段を降りていくのを見送り、私は事務所となる部屋のドアを開けた。  南向きの窓からは、たっぷりの日差しが入る。空気を入れ替えようと思いつき、ベランダの掃き出し窓を開け、リビングの小窓も開ける。今日がこの部屋に入る初めての日なので、間取りなど聞いていたけれども興味深い。  リビングが先生の仕事部屋になるだろうか。私の仕事部屋はどこになるのだろう。隣の部屋だとしたら、日中先生と顔を合わせないのはちょっと悲しい。離れのときのように、先生のデスクの近くで仕事がいいな、とあれこれ夢想する。  玄関横の六畳は資料部屋が仮眠部屋になりそうだ。キッチンはかなり広めだ。お風呂とトイレも独立している。このトイレは、毎日掃除しよう。 「失礼しまーす」  掛けられた声にはっと現実に引き戻される。慌てて玄関に行くと、すでに養生シートが玄関まで貼られていた。 「こっちも貼ります」  スタッフの人に言われて慌てて飛び退く。ああ、本当にここで働くのだ。 「三原さん、こっち来てもらえますか」  スタッフの背中越し、先生がちょいちょいと手招きをする。私はかがみこんでいるスタッフを避けて玄関外に出た。 「最初にデスクを運んでもらうんですが、彼らにはこの指示書を渡してあるのですぐ終わると思います。後は資料の段ボールなので、番号通りに入れてもらえたかを確認してください」  先生はA4サイズの紙を見せてくれた。そこには間取りと、どこになにを置くかの指示が詳細に入っている。段ボールの番号も書かれていた。 「大変なのは彼らが去った後ですが、気合入れて頑張りましょう」 「はい!」 「そうそう、和田さんの他に、藤川さんも来るそうです。藤川さんは三月末で退職されるそうで」 「え!? そうなんですか!?」 「ええ、なんでもご友人が小さな出版社を立ち上げたらしく、そちらに移るそうです」 「そうなんですか」  藤川さん、それほど話したことがあるわけではないけれども、知っている人がいなくなるのはやはり寂しい。
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