変わるとき

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 引っ越しスタッフは中肉中背という印象の四十代くらいの男性と、二十台前半くらいの男性二人組だった。テキパキと家具類を運ぶと、次は段ボールを指示通りに部屋に入れて行ってくれる。私は家具に貼られた番号を印刷した紙を丁寧に剥がし、雑巾掛けした。 「終わりました!」  搬入はあっという間に終わり、お昼代と大福、そして合間に買っておいたペットボトルのお茶を渡す。二人は特に遠慮することもなくそれを受け取ると、早々に去っていった。さあ、これから開梱と整理だ。今日中に終わるだろうか。 「三原さん、少し早いですがお昼に行きませんか」 「あ、はい」 「一つ目のダンボールのガムテープを剥がしたところで先生に声をかけられた。 「商店街の方なんですが、なかなか良さそうな喫茶店があったのでそこでお昼にしましょう」  先生の声は心なしウキウキしているように感じた。やはり、新しい場所というのはそういう気持ちになるものなのだろう。  マンションを出て駅の反対側に行く。こちらは商店街が賑やかしい。活気があってわくわくしてくる。 「あちらです」  先生が示されたのは古いビルの二階だった。狭い階段を上り、店のドアを開けるとドアベルがチリリンと鳴った。 「いらっしゃい、空いてるお席にどうぞ」  髪を緑に染めた六十代くらいの女性がよっこいしょ、というように席を立ち、カウンターの中に入っていく。店内は二、三人の男性客がいて、みんな五十代より上に見えた。 「先生、こういう喫茶店お好きなんですか」 空いていた四人掛けの席に座り、緑の髪のおばさんが水とメニューを持ってきてくれた後、メニューを開きながら聞いてみた。 「どうしてですか」 「以前に衣智華と高坂さんの件で会ったときも、昔ながらの喫茶店という感じのところを選ばれていたので」  先生は記憶を辿るように少し目を泳がせ、「ああ、あのときですね」と得心したかのように微笑んだ。 「そうですね、僕はこういうところがかなり好きです。安心するんですよね……決まりましたか?」 「はい、私はオムライスとホットティーにします」 「僕はドリアと唐揚げ、クリームソーダにします」  私は思わず微笑んでしまった。前の喫茶店のときも先生はクリームソーダを頼まれたことを思い出したからだ。
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