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「こんな仕事をしていただいてすみません」
「え? どういう意味ですか」
「実はずっと疑問に思っていたんです。うら若き乙女にこういったものの整理整頓をしてもらうのは、セクハラに当たってしまうのでは、と」
「はぁ」
「なんせ僕の仕事自体がいかがわしいですから、この仕事に誘ったこともセクハラだったかもしれず、そうなると日常の業務も……」
「先生、やめてください」
先生の目が私を伺う。身長百八十越えの美丈夫がそんな顔をするのは反則だ。
「私はちゃんと納得してますし、先生にお声がけ頂かなかったらきっと就職浪人確定です。先生は救いの神です。慈悲深き仏様です。それに、先生の作品は素敵です。確かに最初は刺激が強すぎてどうしたものかと思いましたが、著作を拝読して私なりに理解しているつもりです」
「では、セクハラには当たらない、と」
「はい、大丈夫です」
「では、もし僕が」
先生はそこで言い淀んだ。口にすることを躊躇っていて、少し眉間に皺がよる様子も美しくて思わず見惚れる。
「その、ですね。もし僕が「こういうシチュエーションの時の女心は」と問うたりするのも、大丈夫でしょうか」
「大丈夫です」
私はキッパリと答えた。
「以前にも女心を教えてほしいと原稿を拝読しましたし、私の意見が参考になるのでしたら、いくらでもキャラクターになりきって考えます」
「では、教えてください。実は今、悩んでいるシーンがありまして」
「はい」
「結婚歴のある男が、一周りも下の女性に恋をするのですが、女性にとってその男性はおそらく恋愛対象にならないのですよ」
「どうしてですか」
「いろんな要素はあるんですがね。やもめなことも考えられますし、女性の上司だからというのもあります」
「はい」
「この場合」
先生は一旦言葉を切った。なにを言おうか逡巡されている感じだ。
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