変わるとき

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 先生が口を開きかけたときに、インターホンが鳴った。反射的にモニターを見ると、和田さんが写っていた。 「先生、和田さんいらしたみたいです」 「あ、ええ、そうですね。ロックを開けましょう」  先生はインターホンのロック解除ボタンを押すと「どうぞ」と言った。和田さんは軽く会釈をすると中に入ってきた。数分後、玄関のインターホンが鳴らされて私が出た。 「和田さん、お疲れ様です」 「お疲れ様。差し入れ持ってきましたよ」 「わぁ、ありがとうございます」 「いかがですか、進捗は」 「スムースです。今は資料の整理中で」 「わたしも後で手伝いますよ、でもまずはお茶にしませんか」 「和田さん、どうも」 「呉先生、お疲れ様です。差し入れ買ってきましたよ」  和田さんは手にしていた紙袋を先生に差し出した。 「おかきとあんこ玉買ってきました。先生お好きでしたよね」 「これはありがたい。三原さん、お茶を淹れていただけますか」 「はい」  キッチンに置いた段ボールから電気ポットを取り出しセットする。お茶関係の道具はすべて同じ箱に詰めておいて良かった。和菓子だから日本茶が良いだろう。  急須、茶葉、茶碗を用意し、湧いた湯を茶碗に注いで温める。茶葉を目分量で急須に入れ、湯冷ましした茶碗の湯を急須に注ぐ。お茶が浸出されるまでの間に菓子皿と銘々皿を出し、おかきを菓子皿に盛り、あんこ玉は銘々皿に盛って黒文字を添える。電気ポットに残っているお湯は保温ポットに移した。 「手伝うわ」  和田さんが声をかけてくれたので、来客用テーブルの上を拭いてもらう。保温ポットを先に運び、お盆に菓子皿と銘々皿を渡して和田さんに配膳をお願いし、私は急須と茶碗を運んだ。 「用意ありがとうございます」  呉先生が微笑む。 「いただきましょう、和田さんありがとうございます」 「ありがとうございます、美味しそう」  三人でテーブルを囲み、雑談をしながらお茶を嗜み、甘味を楽しむ。先生は私にした先程の質問を忘れてしまったのか、その後の片付けのときも、和田さんが帰った後も……再び聞かれることは、なかった。
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