初めての泊まり出張(1日目)

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初めての泊まり出張(1日目)

 四月一日、気持ちも新たに事務所へと向かう。今日から九時五時での仕事が待っている。とはいっても、これまでの夕方のアルバイトから時間帯が朝にシフトしたようなものだし、仕事内容にもそれほど大きな変化はない。  初日、ということで一応スーツにした。先生は「特に来客がない日はラフな格好でも構いません」とおっしゃってくださったけれども、いつかの和田さんの言葉が蘇るから、きちんとしなければと思う。アルバイトのときのお給料から、少しずつ洋服も揃えたし、初任給が入ったらアクセサリー類も増やしていきたい、靴も。  乗り込んだ電車はそこそこに混んでいる。私は吊り革につかまりながら外の景色を見た。民家、川、商店街。線路沿いの桜はすでに葉桜で、若葉の黄緑が風に煽られて揺られている。  事務所の最寄駅に着き、徒歩一分。マンションの入り口で後ろから「三原さん」と声をかけられた。 「先生、おはようございます」 「おはようございます、早いですね」 「初出社日になりますから遅刻したくなくて、早めに来てしまいました」 「良い心がけですね」  先生はエレベーターのボタンを押すと、ドアを押さえて私を先に乗せてくれた。秘書ならば私がボタンを押して先生が乗るのを待つべきでは、と告げると、「まだ仕事は始まってませんから」と微笑まれる。 「今週後半と来週は出版社に挨拶に行きましょう。皆さん出社は昼過ぎなので、午後から出かける感じで」 「はい、わかりました」  事務所の鍵、スペアキーをもらってある。私はそれを取り出し、先生が開けるより早くドアを開けた。 「ありがとうございます」  微笑み、少し頭を傾げてお礼を仰る先生。決して「してもらうことが当たり前」なんて思ってらっしゃらない。そういうところも、好き。 「そうそう、藤川さんの会社も挨拶にいきましょうね。藤川さんに予定を聞いておいてください」 「わかりました」  バッグを所定の位置に置き、コートをコート掛けにかける。まずはお湯を沸かして朝のお茶を入れる。 「今日はほうじ茶にしてください」 「はい」  四月一日、新社会人になって初の出社日が幕を開けた。もうアルバイトではないのだから、改めて気を引き締め、先生を全力でサポートしなければ。
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