バッドラックガール

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 隅の方のベンチに腰掛けて、ココアに息を吹きかける。紙コップを通して、ココアの熱が伝わる。一口口に含むと、ささくれた心が甘さに癒された。  もう、就職先、どこでもいいかな、なんて思ってしまう。取り敢えず、セクハラやモラハラがなければ多少ブラックでも構わない……残業や休日出勤もない、なんて今のご時世ではまずありえないんだから。  秋の空は澄み渡り、どこまでも高い。色づいたイチョウの木はどっしりとしていて、安心感を感じる。よし、また就活頑張ろう。  気持ちを切り替え、残りのココアを飲み切ろうと紙カップを傾けたときだった。頭にがつん、と強い衝撃を感じた。一瞬、何が起きたのか分からず、目の前も暗くなった。 「すみません! 大丈夫ですか!?」  遠くから聞こえる男の人の声。焦っているように感じる。大丈夫、って私のこと……? 「ああ! 服……本当にすみません!」  急激に感じる頭の痛みに、思わず手をやる。胸元が熱いのはなんでだ? あれ? 紙コップ持ってなかったっけ?  目の前に男の子が佇んでいた。年齢、七歳くらいだろうか。利発そうな目をし、両手でサッカーボールを持っている。公園に入るときに見かけた、親子でサッカーしてた子か。 「パパ、お姉さんにごめんなさいして」 「申し訳ありません、僕が蹴ったボールが当たってしまって……大丈夫ですか? 頭、痛くないですか?」 「大丈夫、です」  ココアを飲もうとした私に、このパパさんが蹴ったボールが当たったのか。ようやく状況が飲み込めてきた。 「洋服、汚してしまって申し訳ありません。クリーニング代お出しします。もしくは買い替えていただいて、その代金を請求いただければ僕、払いますので」  言われて服を見ると、スーツとブラウスの一部にココアが付着していた。だから熱かったのか。と納得がいく。
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