290人が本棚に入れています
本棚に追加
「では黒田さん、お先にいただきます」
「どうぞ。僕のもそのうち来ると思うので」
黒田さんに断り、厚切りのピザトーストを手に取り、口に運んだ。熱っ、と思ったものの美味しさに思わずかぶりつく。
カリッと焼けた厚切りトーストは、外側はさくさくしていて中はもっちり、トマトソースの甘味と酸味のバランスが抜群だ。サラミ、ピーマン、玉ねぎの薄さがまた絶妙で、チーズの分量も申し分ない。私は思わず夢中になってしまった。
「これは美味しいですね」
呉先生も気に入ったようだ。舌をやけどしないようふうふうと冷ましながらも、二口目を齧るのが待ち遠しい。
「あ、僕のも来たようです」
カウンターを出たオーナーが黒田さんの前に無言で白いお皿を置く。その上には焼き立てのフレンチトーストが乗っている。添えられた生クリームの白、ミントの葉の緑、鮮やかな赤のベリーシロップ、メープルシロップの金色が、思わずため息をつくほどに美しい。
「あ……いい香り」
続いて置かれたアイスティー、ほのかに立ち上るアールグレイの香りに思わず目を閉じる。ああ、アイスティーも良かったな……氷で埋まることを想定してか、少々濃い目に入れられたであろうお茶の琥珀色が美しい。
「そんなに見てもあげませんよ」
黒田さんは私を睨め付けた。物欲しそうに見ていたかと恥ずかしくなる。
「フレンチトーストも美味しそうですね」
「マスター、全部手作りしてるそうなんですよ。このベリーシロップも市販じゃないんですよ。パンは昨晩から卵液につけてあるらしいですし、凝り性ですよね」
「それは素晴らしい」
呉先生は品よく口を開けるとピザトーストを食んだ。その唇の横からトマトソースがつ、と垂れそうになり、反射的に指を差し出していた。
「ありがとうございます」
「いいえ」
指で救ったトマトソースを、さりげなく使い捨ておしぼりで拭く。ああ、これが少女漫画ならトマトソースをぺろりと舐められるのに。いや、それは男子がやる側で、私が舐めてはいけないか。
最初のコメントを投稿しよう!