初めての泊まり出張(2日目)

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「その返事を、してもいいですか」  先生の声が甘い。耳の奥に吐息を流し込むように甘い声が忍び入り、思わず背中がぞくりとする。 「先、生……申し訳、ありません」 「何がです?」 「私……私は……」    お茶のせいだとしても、正気ではなかったとしても。共に働く相手から、性的な目で見られていると知った先生は、いったいどう思われただろうか。先生は紳士だから、きっと無碍なことはしまい。けれどもそれでは、先生に無理をさせてしまう、今以上に気を使わせてしまう。 「謝る必要はありませんよ、むしろ僕は嬉しくて嬉しくて、顔がニヤついてしまうほどでした。例えお茶の効果のせいだとしても……三原さんの口から、僕への欲を、感情を聞くことができた」 「先生」  私は先生の腕から逃れようとした。細身の先生の、どこにそんな力があるのか。いや、やはり男性だからなのか。抱き止められた腕を押してもびくともしない。先生の息が更に熱くなる。 「上野さんに確認をして、更に喜びは増した。あのお茶は催淫効果があるだけでなく、本音を吐露してしまうのだそうです。特に、誰にもいえない、隠しておきたいようなことを言ってしまいたくなるそうですよ」  先生のエレガントな指が私の顎をそっと捉えた。正面を向かされる。目を見られなくてそっと視線を外した。 「僕を想ってくれて、嬉しいです」 「先生……」  先生は顎を捉えていた指をそっと外すと、私の髪に触れた。 「なのに、目が覚めた後の三原さんは黒田さんからの連絡を気にされていて、僕は混乱しました。まるで彼からのメールを待ち望んでいたかのように落ち着きがなくなっていて」 「え……、えっ? そんな、でしたか」 「そんなでしたよ」  先生が微笑む。 「好きな人が他の男からのメールを気にして、すぐにでも読みたいなんて素振りをしてたら、そりゃあこちらも余裕がなくなります。ましてや、仕事についてきてもらう算段をつけていたとなると、僕はもしや自分は当て馬かと疑いました」 「先生、私そんなつもりでは」 「ええ、分かってます」  先生は私の髪をいじっていた指を、今度は肩へ、と回した。 「好きです、三原さん」 「は? ……え? 今、なんておっしゃいましたか」 「僕も三原さんが好きなんです」  すぐには、言われたことが理解できなかった。先生が、私を好き? 「僕は男やもめだし、息子もいる。そして三原さんの雇い主で年齢差も大きい。だから気持ちを表さないようにと気をつけていました。しかし、ここは黒田さんに感謝すべきなんでしょうかね? 彼の存在が、僕の背中を押してくれましたよ」  先生の指が頬に触れた。指先、少し冷たい。そのまま、頬の輪郭に沿って指が滑る、撫でられる。 「僕は三原さんを、女性として好きなんですよ」  鼓膜が震える。甘い。甘くて蕩けそうだ。脳の回路が過剰な甘さに吹っ飛ぶ。何も理解できない。目の前に先生の美しい顔が迫る。  柔らかななにかが唇に軽く触れ、何度も確認するように離れては触れる、を繰り返す。 「三原さん……? 息、してますか」  息ができるわけがない。私は完全にパニックになっていた。
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