初めての泊まり出張(2日目)

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「先生……いけません、やめてください」  私は遠のきそうな意識を必死につなぎとめて先生に伝えた。先生が私にキス……? いけない、絶対にいけない。だって先生は私の雇主で上司なんだから。 「どうしていけないんですか」  先生の手は優しい。私の頬を愛おしそうに手の甲で撫でる。 「いけません、先生は私の上司です。いくら私が先生のことを好きでも、先生がわたしを好きだとしても、いけないと思います」 「三原さん……」  懸命に首を横に振る。頭がぼーっとしていて、幸せで、でも、いけないのだ。  先生は、しばらく名残惜しそうに私の頬を撫でていたけれども、やがて小さく、艶かしいため息をついた。 「……わかりました。軽率でしたね、三原さんの気持ちも考えず、失礼しました」 「先生」 「今日はゆっくり休んでください。明日は普通にしますから」 「先生」 「さ、つかまってください。立てますか」  差し出された手につかまった。まるで腰が抜けたようにふらふらで力が入らなかったけれども、なんとか立ち上がった。 「部屋まで送ります」 「はい……」  先生は、傷付かれてしまっただろうか。私が拒否したから、嫌な思いを持たれていないだろうか。  先生のことは大好きで、性的な魅力も感じているし欲もある。けれども、けれども……。  断ったことは正しかったのだろうか。それとも、もしも受け入れていたら、どうなったのか。 「明日は朝、明石海峡大橋に行ってからプラネタリウムなど、「デートコース」の履修でしたね」 「は、はい」 「おやすみなさい」 「……おやすみなさい」  静かに閉められたドア。私の中は感情の大嵐で、どうしたらいいのか、どうすべきかがわからない。 「好きって……」  唇に触れた。さっき、先生の唇が何度となく触れた、私のこの唇。私の、私の……。  先生と気持ちが通じ合ったことは嬉しかった。本当に、心の底から嬉しかったのだ。なのに、素直に喜べないもう一人の私がいる、この恋を進めるべきじゃない、と必死に止めてくる。ならば、どうしたら良いのか。  ぐるぐると頭の中でまとまらない考えを持て余しながら、私はベッドにばたんと倒れ込んだ。
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