バッドラックガール

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バッドラックガール

 冷たい風がひゅう、とコートの裾を揺らした。  思わず襟を立てて足速に歩く。重たいバッグが肩に食い込む……今日の面接、あれで採用になったら奇跡だ。  大学四年、卒業間近。成績優秀、単位は余裕で足りているし出席日数も各教科皆勤賞が取れる。無遅刻無欠席。  誰よりも真面目に学業に勤しみ、ゼミに参加し、サークル活動では先輩を立て、後輩を導いてきた。  授業中に私語なんて言語道断、真面目にノートを取り、どんな退屈な授業でも、居眠りをしたことはない。  そんな、優良学生の申し子のような私が、就職活動に行き詰まっている。  受け取ったお祈りメールは数知れず。書類選考を通っても面接で落とされ、もはやなんの手立てもないまま冬を迎えようとしている、この時期。  同じゼミの仲間や仲の良い友人たちは春先にさっさと内定を決め、後は卒業単位の習得で苦しんでいるというのに、私は就職できるか否かで苦しんでいる。  ゼミの先生のお膳立てでなんとか地元中小企業の面接までは漕ぎ着けたものの、あまりにも封建的な社風と、それに胡座をかいている若い社長の暴言に嫌気がさし、啖呵を切ってそのまま飛び出してしまったのだ。  大きくため息をつくと、お腹の虫がキュルキュルと鳴った。コンビニでもないかと辺りを見回すと、手前に小さな公園、そして道を挟んだ向こうにコンビニがあるのが目に入った。  温まるものでも買おう。こんなときは何かお腹に入れないと、空元気すら出やしない。  コンビニでココアを買い、公園に向かう。昼下がりのうららかな日差しが当たるその公園には、サッカーボールを蹴って遊んでいる親子と、まだ若そうな母親が二人。一人はベビーカーに子どもを乗せ、もう一人はスリングの赤ちゃんをあやしながら、おしゃべりに興じている。  どこからか聞こえてくる石焼き芋売りの録音された音声が、やけに郷愁をそそる。
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