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「はぁ……つまんない」
「あのさ、人の前でそんな景気の悪そうなため息つかないでくれます?」
「あ、いたんだ」
「いたさ……!ゴホッ、ケホッ」
ゲームセンターの店員のマスク男の……。
「えっと、名前なんだっけ?」
「不躾になんですかね。名札に書いてあるでしょ、ほら、藍澤って」
「あ、藍澤さん!お久しぶりです!」
「うん、昨日も会ってますね。自己紹介も月イチ位でしてるね、ゴホッ」
「ノリ悪いなー、藍澤さん」
「いや、だいぶ付き合ってあげてる方だと思いますけど」
店員用のカウンターテーブルに肘ついた手に顎を乗せて店内に視線を戻す。
私はその横の壁に寄りかかって同じように店内を眺めている。
「また、先生に怒られたんですか?」
「ノーコメントで」
「つまり、イエスと」
「NOコメントで」
「ちょっと発音良くしても意味ないですよ」
「面白いことないかな~」
「僕の友人がこんなこと言ってましたよ。面白いことは探すものじゃなく、見つけるものだって」
「何が違うの?」
「さぁてね、僕には理解できませんでした」
何じゃそりゃ、探すと見つけるって同じことだと思うんだけど。
探す……見つける……search……find……?
う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん…………。
「私にも分かんない」
「ですよねぇ」
二人してなんとなく天井を見つめた。
「ねぇ、ちょっと店員さん」
「あ、はい、何でしょうか」
眼の前で声がして、視線を戻すと
「わ、美人……!」
「ん?うん、知ってる。それより店員さん。あのUFOキャッチャー取れないんだけど」
こちらに一瞥だけして、藍澤さんの方にまたすぐ向き直る。
うーん、クール。
「え、あ、あぁ、はいはい。どちらでしょうか」
藍澤さんが付いていくあとを更に付いていくド〇クエ歩きをする。
じっとしてても暇だからね。
「これ」
見た目は今どきのJKだけど、どこか品のある美人の彼女が、指差すUFOキャッチャーには、とあるアニメのマスコット的キャラのクッションが2本のバーの上に乗っていた。
「これは……すみません、これで一番取れやすくなってるんですよ」
そう!しかも店としても出したいから、だいぶゆるくなってるやつ。
「うそよ!もう5千円やってるのに落ちないのよ」
「それただの下手なんじゃ――」
「っ!」
思いっきり睨まれた。
あぁ、でも美少女は睨んでもキレイだなー、ドキドキしちゃう、というかしてる。
「う~ん、どうしたものですかね……」
そうだ、良いこと思いついたっ。
「ふんふんふーん」
鼻歌をわざとらしく歌いながらお金を投入する。
「あ、ちょっと!」
女の子が止めようとしたけど、軽快な音楽が鳴り始める。
「んまっ、見ててよ」
バチコーン、と負けじと今どきのJKっぽくウインクをかましてみる。
「ふん、どうせ取れるわけがないわ」
髪を掻き上げてそっぽを向かれてしまう。
ふむぅ、振られちった。
「んじゃ、よろしくおねがいしますね」
「あいよー」
私の返事に藍澤さんは片手を上げて、その場をあとにする。
「あ、ちょ、ちょっと!」
美少女は藍澤さんの背中に声を投げかけるが、ひらひらとひょろい手を振り返されるだけだった。
「まぁ、これで元気だしなよ」
ポフっと今しがた取れたのをプレゼントする。
「え?」
「ふふーん」
「え?……えっ?」
「ぶいっ」
「…………あ、ありがと」
消え入りそうな声だからちょっと意地悪してみる。
「ん~?なぁに?」
耳を近づける。
あ、良い匂い。さすが美少女。
「ありがたく受け取っておくわ。それじゃ」
「あっ――……」
クッションをギュッと抱きしめて去っていってしまった。
「ふむぅ、友達になりたかったのに」
あの制服、電車で数駅隣のお嬢様学校のだったような。私には入れそうもない。
ま、しょうがないっか。私もかーえろっと。
「あ、そだ」
藍澤さんのもとへ戻る。
「ねぇねぇ、あの子よく来る?」
「う~ん…………」
藍澤さんは視線を上の方に向けてマスクを軽く引っ張って離す。
これは考えたりする時の藍澤さんの癖。
「……いや、今日初めて見ましたね」
「そっか!ありがと。じゃね~」
「はい、お気をつけて。ゴホッ」
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