3 物思う心

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 慶とは再会から、そのまま一晩を過ごした。市内の中心部にある彼のタワーマンションは夜景がとても綺麗だった。やたら綺麗な夜景のせいにして、雰囲気に流されてしまった。  色々お世話になったので、せめて朝食くらいはとお邪魔したキッチン。モダンなインテリアに合う冷蔵庫にはワインキャビネットまで付いていた。その豪華な冷蔵庫は中身もゴージャスで、一人暮らしの男性とは思えないものだった。ぱっと見ただけでもエシレに誉に分からないけれど色々とお高そうなものがずらりと並ぶ。そういえばこの人、食のこだわり凄かった。昔の慶が脳裏に甦り思わず笑みが溢れる。冷蔵庫を探索しながら彼の好きだったメニューを思い出す。そんな心地よい邂逅に浸る私の側に、甘い雰囲気を醸し出しやって来た慶は自然に寄り添い色々と教えてくれた。 「何でも使(つこ)てや。美味しいパンもあるわ!シオ好きやろ?パン」  豪華な食材に和洋捨てがたく悩んでいたけれど洋食にした。美味しいと評判のパンに合わせて、レンチンの簡単ポーチドエッグにアボカドとトマト立派なベーコンを拝借し、マヨと卵黄とマスタードを混ぜたソースをかけたエッグベネディクト風。大和の分はマスタードは抜いて。素材が豪華なので切って焼くだけで充分美味しそうに出来上がった。コーヒーはお店に置いてあるような大きいエスプレッソメーカー。  何だか温かくて、懐かしい風景。  大和は慶の横に並んで座り、今日の遊びの計画も立てていた。 ── シオ  夫だった人とは違う、懐かしい関西のイントネーション。吐く息と共に漏れた声。  ふとした拍子に昨晩の降るようなキスをまだ身体が覚えてる。 ── もう一度俺とやり直そ。    頼ってくれと慶は言ってくれるけれど……  私はいつも流される。
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