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「ありがとう!慶さん!」
「おぅ!また遊ぼうな!」
周りに店も無い静かな住宅地に、車の扉を閉める音が響く。実家のすぐ近くまで送ってくれた慶は大和の頭をわしゃわしゃと混ぜるように撫でていた。私の両親に挨拶したいと言い張る慶に、それは待って欲しいと頼んだ。離婚して実家に戻ってから、世間体を気にする母と、まだ向き合って話が出来ないでいた。
「ママ、たくさん笑ってたね!」
お風呂に入りながらぱしゃぱしゃとおもちゃに水をかけ嬉しそうに大和が笑う。子供にまで気を遣わせていたことにようやく気づく。どれだけ余裕がなかったのだろう。慶に似た笑顔に胸が締め付けられる。
元々親の顔色を伺い育った私は、全てに自信が無い。それをプライドで囲って誤魔化していた。人一倍メンタルが弱い。
でもこの2日慶といて、気持ちが少し前向きになった気がする。やっと笑顔でお腹を撫でることが出来た。
「ごめんね、ママしっかりするからね」
翌日、お昼過ぎに『少し遅れる!ごめん』とSNSメッセージの通知があった。
母には慶に会うのだと告げると案の定いい顔をされなかったけれど。午後だけならと、大和を見ていてもらえることになった。あまり知った人に会わないようにと、実家から少し離れたカフェで待ち合わせをした。
『先にお茶してるから大丈夫よ』と返信していたら、少しして慶が息を切らしテーブルの前にやって来た。
「良かったっ、おった」
心底ほっとしたような緩い笑顔で、少し乱れたツーブロック気味の前髪をかき上げた。お相手の女性には困らないだろう彼が、大切にしてくれている態度が嬉しかった。
「まず病院やな!」
「今日お仕事の予定無理させたよね、その上そんなに走らせてごめんね」
「めっちゃ朝早よぉから頑張って、明日まで予定開けたった」
彼らしい含みを持たせたような笑顔で慶が笑う。
「何かごめんね」
笑いながら慶は車の扉を開けてくれた。乗り込もうとすると後ろから抱きしめられ、そのままいきなり胸を揉まれた。
はぁ~幸せ~と揉みしだく慶。驚き言葉も返せずにいたけれど、とりあえず非難顔だけは向けておいた。
「え?ご褒美貰ってんねん」
人通りの少ない奥まった駐車場とはいえ、昼間っから外で何するの!?
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