3 物思う心

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 近くの産婦人科が運良く空いていて、車で連れて行ってもらった。  東京では産婦人科によく通った。妊婦を見かけるたびに焦る気持ちに囚われた、足掛け五年の不妊治療。夫の子をと毎月期待しては落ち込む、その繰り返し。望んでいた時には出来ず、別れてから授かるなんて。  妊娠四ヶ月。ふつう早い週数では伝えないそう、あまりにはっきり超音波エコーで判ったからと先生は女の子だろうと教えてくれた。  これから通院するなら関係を聞かれて不快な思いをしないようにと気遣い、車で待ってくれていた慶に健診内容を伝えた。   「大和も可愛いけど、女の子か~!絶対めっちゃ可愛いやん!」    こんなに自然に話せるようになるなんて数日前までは思いもよらなかった。いつの間にか身体の強張りも解け、心持ちまで穏やかになっていた。     次に訪れた役所では、母子手帳交付の際に妊娠が判ってから今までの放置を指摘された。離婚の話をすると一人で育てるのなら覚悟が必要よと、ヘルパーサービスなどの情報が記載された用紙も渡された。  役所の担当してくれた女性は大らかそうな年配の方だった。どうか無理せずに周りの人に頼りなさいねと、産後頑張りすぎてノイローゼになるお母さんもいるのだからと励ましてくれた。  大和の出産の時は元夫、健人に助けられて守られていたからだろう、苦労なく幸せな思い出ばかりだった。 「そおと決まれば買い物や!」 「早過ぎじゃない?」 「シオの服も買うし」 「え?」 「美人の彼女、着飾らせて自慢したい」    まだ何も返事していないと訂正する私をいなすように、慶はデパートに車を走らせる。軽くなった心に、乾いたエンジン音がよく響いた。   「そこからそこまで全部ちょーだい。後で駐車場回しといて」  デパートの周辺にある海外ブランド店舗のあちこちで、このセリフ。何度辞退を告げても強引に話を持っていくところは相変わらずで。映画かドラマみたいとも思うけれど、これ断りにくくするのが狙いよねと彼の行動を懐かしく可愛く思えてくるのだから、私もだいぶ残念だ。
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