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夜は大和を連れて食事へ行くと、父と母から連絡が入った。それを聞いた慶に誘われ、久しぶりに二人で食事をすることになった。
港町神戸の中華街にあるレストラン。大正時代から続く老舗ながら、アットホームな雰囲気で。神戸牛のみを扱うこだわりの味が受け継がれていた。落ち着いた空間に大和のいない二人きりの食事。テーブルの近い距離で、慶の視線を痛いほど感じ、せっかくの食事の味もあまりわからなかった。
帰りの車の中は、お互い口数も少なく静かだった。対向車のライトが時折り静寂を破るだけの、少し日常離れしたこの空間が心地よい。
家へ帰ると、時計の針は八時を回っていた。大和はリビングで父と遊び、しばらくして私に気づき、飛んできた。
「おじいちゃんとお風呂に入ったよ!アイスも貰ったんだ!」
と笑顔で教えてくれた。「なかなか東京で会えんかったからな」と父はとても大和を可愛いがってくれていた。
そして父と母に伝えたいことがあると話し始めると、母は逃げるよう「用事を思い出した」とキッチンへ消えた。
「大和ももう眠たそうやから寝かしてきたり。起きて待っとく、母さんと一緒に話聞くわ」
父の言葉にありがとうと返す私の横で、重なるように大和が手を振った。
「おやすみ、おじいちゃん。また明日ね」
うつらうつらと夢の世界へ舟を漕ぎ出した大和の背中をさすりながら、せめて良い夢をと願う。急な離婚で父親から離され、お友達ともお別れした。環境変化に戸惑うこともあるはずなのに、明るく笑ってくれる大和。
「ママは助けられてばっかりね、ありがとう」
明日は大和にも、妹の話をしよう。
大和を寝かせつけ、リビングに戻る。紅茶を用意して、父と母が待っていた。
「待たせて、ごめんなさい」
「なんも謝る必要ない、一息つき」
並んで座る二人に向かい合うように、腰をかける。
前口上無しに、お腹に四ヶ月の赤ちゃんがいると伝えた。
「貴方はまた何をしてるの!!」
立ち上がろうとする母を、父が肩をおさえ椅子に戻した。
「もう少し詳しく話してもらおか」
冷静に、父が話を進める。
「健人さんとの子で。離婚の話し合いがまとまってから気づいたのだけれど、伝えずに別れてきました」
「彼は知らんのか、言うべきやろ」
「なさぬ子の大和の養育費を断ったけど、送ってくれてるの、充分よ」
「そんな話は聞いてへん。何か不貞でもあったんか?」
父の口調が途端にキツくなった。
「それは夫婦間の問題だから。大丈夫」
「何を言ってるの!また貴方はこんな傷モノにされて!」
父がヒステリックに泣く母の肩をさする。
「贅沢はさせられんけど、シオと大和と赤ちゃんくらいは面倒みたるから。考えつめんでええ」
母さんも昔からシオが可愛いくて仕方ないから堪忍なと。
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