1 八年目の春

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 テーマパークのエントランス付近では誰もが知る恐竜映画の音楽が流れ、映画オープニングの代名詞でもある大きな地球儀の前でスマホをかざし写真を撮る若い子たちが賑わっていた。私の横を大和と並び歩く慶と二人で何度もここを訪れた。歳月経てまた慶とそして大和と一緒にこうしてエントランスをくぐる。  映画の世界観を再現が売り文句のパークに、最近では子供向けゲームキャラクターのエリアが人気だそう。 「昔と随分雰囲気が変わった気がする」 「だいぶ来てないん?」 「ずっと東京だったから。大学の時、一緒に来たっきり……」    慶は、と喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。華やかだろう彼の交遊関係を聞きたくなくて、でも知りたくて。 ── 恋の始まりは晴れたり曇ったりの四月のようだ。   出会った時から、そうだった。  初めての恋はまるで物語のような胸の高鳴りと、身を切るような切なさを教えてくれた。 「もう暗いんは平気?」  ついこの前のことを指摘するかのよう、茶化してくる慶。 「ママのこと?」  周りの景色に気を取られていたはずの大和も会話に飛びついてきた。 「そうそう大和のママはゾンビが怖いねん。めっちゃすごい叫び声やってん」 「僕もゾンビは嫌だよ。ここいるの?」 「秋のハロウィンの時期だけな」 「じゃあママ、秋は絶対来ないでいようね」  頼もしげな顔を向けてくれる息子。 「かっこええな、大和!」  夕日を受けた二人の笑顔が優しく色づいていた。  ハロウィン時期のゾンビイベントで慶が知人の女の子達にとり囲まれたことがあった。その輪から弾かれた私は歩き疲れたこともあり、何処か空いたベンチで待っていようとそっと慶の側を離れた。すると最初は一人けれど続々と集まりだしたゾンビに囲まれ驚き声を上げてしまった。  声を聞き駆けつけてくれた慶がゾンビから引き離すようにと掴まれた掌は少し汗ばんでいた。  その手が嬉しくて思わず抱きついていた。それが恐怖心からと勘違いした慶はずっと背を撫でてくれていた。   ── ゾンビあかんのやったら我慢せんと言うてや。 ── さっきの子達は? ── ほんまあいつら邪魔やな。ごめんな、せっかくのデートやのに。  広い交友関係を持つ慶と、彼の周りにいる華やかな女の子達のことを気にかけていないかのよう装っていた。甘い砂糖に恋の強火はとろみどころか飴色を超えて、いつのまにか嫉妬という名の苦い焦げになっていった。
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