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三郎太が四つの頃、母が山で行方知れずになった。父と共に山菜を採りに行った時、夕立の中ではぐれてしまったのだと、父は言う。父は一人山の麓で、ぐしょ濡れの姿でフラフラと歩いていた。
何度目かの村人総出での山狩りで、谷底で母の死体が見つかった。母の服以外に、それとわかる証拠がないほどに、遺体はグズグズに腐っていた。
「可哀想に、夕立の中で足を滑らせたのだろう」
村の人間はそう言って三郎太と、目を離してしまった父を哀れんだ。だが父は、そんな村人たちの憐れみを意にも介さず、以来ずっと、空をぼんやりと見つめるようになっていた。夏が来ると目に見えてソワソワとし始め、入道雲が現れると、そちらへ力なく歩いていこうとする。
村人は父の行動を見守ったが、まるで操り人形のような父の姿を三郎太は恐れ、関わる事すら拒むようになった。そしてある日、山に夕立が降っているのが村から見えた時、父は周囲が止めるのも聞かずに飛び出していってしまい、それ以来、帰ってはこなかった。
一年の後、三郎太が魚を捕りに川に潜った時、布切れが泥溜まりから飛び出しているのが見えた。引っ張ってみると、それは服だった。黒ずんだボロボロの服が、千切れた腕と共に飛び出してきたのだ。死体は男性か女性かもわからないほどに腐り落ちていたが、服の柄から、父であることが分かった。
三郎太はその時のことを詳細には思い出さない。腐った肉の塊が自分の肉親であるなどと、そんなことに思いを馳せたくはなかった。だが、彼が夕立を嫌う理由がそこにあることは明らかだった。
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