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たてこもり探偵 1
その日は茹だるような暑さで、6月とは思えない、雲一つない快晴だった。
昼下がり、6限、私は窓際の席からグラウンドの得点板を眺めていた。時折歓声が上がり、点が捲られる。近くを通った先生に机を指差される。観戦に集中しすぎて、教科書のページを捲るのを忘れていた。
教科書の方に頭を切り替えようとしたけれど、そんなに簡単にはいかない。先生は今どの部分の説明をしているんだろう。こんがらがった思考の先に、何もかもどうでもよくなってしまう。しばらくすると私の脳内は放課後の予定に埋め尽くされていた。手に持ったペンとページだけは、動かしていたけれど。
やがてチャイムが鳴る。放課後が、はじまる。
「広葉さん、今日時間ある?」
ホームルームが終わってすぐクラスを出ると、声をかけてきたのは朴木先輩だった。ボードゲーム部の2年生。部の中では多分、一番将棋が上手い。
「え、何をやるかによります」
「はは、私が誘ってるんだよ?もちろん、これに決まってるでしょ」
そう言って先輩は手のひらを盤に見立てて駒を打つ仕草をした。ウィンクも添えて。先輩と一局指すと、いつも3時間はかかる。前に指した時には、私の一手に一時間近く悩まれたこともあった。
「すみません、また今度で!」
「えー」
不満げな先輩を押しのけて、階段を降りて玄関へ向かう。仕方ない。今日はあまり時間をとれないのだ。早く行かなくては。そのために他の部の予定も今日は空けてきていた。
しかし、玄関を出て、正門の近くまで来たところで、何か違和感を感じた。朝とは変わった部分があるような……すぐに気が付いた。銅像が、ブルーシートで覆われていた。この銅像はここ、城南高校の初代校長のものだ。
何かあったのだろうか。いや、今はそれより大事なことがある。早く、行かなくては。
「こんにちは!」
「こんにちは、ふふ、元気ねえ」
通学路を小走りで辿る。犬の散歩をしている地域の方とすれ違う。その挨拶と呼応するように、黒い柴犬が私の方に振り返りながらしっぽを振る。もしかして、後ろでまとめた髪が揺れるのを見て、仲間だと思ったのだろうか。そんなことを考えて、思わず笑みが溢れる。
我が家を通りすぎて、少し歩くと、紫島の表札が見える。家の前まで来た。鞄の中身を確認して、インターホンを押す。
「こんにちは!ふうちゃん、いますか?」
「あら、広葉ちゃん?ふふ、あの子ならいつでもいるわよ」
風花、広葉ちゃんが来たわよというお母さんの声が聞こえて、その後すぐにドアが開く。
「いらっしゃい。ゆっくりしてってね」
「お邪魔します」
玄関に入り、そのまま二階に上がる。部屋の前に立って、ノックをする。
「ふうちゃん、来たよ」
「……いらっしゃい、広葉」
ドアを開けると、薄暗い部屋の中で積み重なった本の中に佇む少女が見える。
私の親友、紫島風花だ。
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