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『あの歌ね、おにいちゃんが書いた詩に、私が適当に曲つけたものなの』
マツコさんと話すようになってから、教えてもらった。あの歌のこと。
『おにいちゃんはね、文学を学んでいて、私に詩やら小説やら送ってきた。
で、学徒出陣する前に送ってきたのがこれなの』
浜辺に黄色いはまぼう揺れる
ああ かれんで艶やかな花よ
あなたに心ひかれ見つめた
あなたとともに海をながめ潮風感じ
まぬけなカモメの声に笑いあった
楽しくて楽しくてもっと一緒にいたかった
空が茜色に染まるとき
あなたも赤く染まり
とても美しくとても綺麗なままで
はかなく散った
はまぼうよ楽しい思い出をありがとう
楽しい思い出をこの胸にずっとだきしめているよ
『なんだか恋文みたいよね。
きっと、おにいちゃんは愛する人がいたけど、出陣するせいで破局したのかもね。
けど、そんな詩だけど、大切なおにいちゃんの最期の詩。
だからね、私は楽しい思い出で胸をいっぱいにしたいの。おにいちゃんがそうだったように』
『そっか。文科系は学徒出陣て、おかしいよな。体力と実力ある士官学校のやつらが戦地に行けばいいのに。
士官学校行ってる勇兄さんは、本土でのうのうと生きてるよ』
マツコさんのお兄さんの話を聞いて、僕はあのとき、怒っていた。
ただ不条理な世にいらだっていた。
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