枯れた花の名前を知る時

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 ***  新しいパックが出るたび、ルール改定が入るたび、内容が煩雑になり難易度が上がってくることで有名なそのゲーム。どうやら俺と同様、彼もずっとプレイし続けていたということらしかった。何でも最近はカード本体がなくても、アプリで世界中の人と対戦できるようになっているらしい。  会社の同僚やら、オタク仲間やらと続けていたこともあって、俺は結構自分の力量に自信があったのだが。月夜と対戦した結果、三回連続で俺が負けるという事態に陥っていたのだった。 「お前いつの間にドラゴン使いになったの。ていうか、そのデッキ回りすぎてドン引くレベルなんですけど」  テーブルの上には、俺の惨敗の結果が明確に刻まれている。エースモンスターを召喚して勝ったと思ったのに、召喚直後に落とし穴に落ちるだなんて運がないとしか言いようがない。しかも墓地ではなくて“ゲームから除外”されるゾーンに吹っ飛ばされるという悲しさ。そりゃあ、相手の伏せカードを警戒していなかった自分が悪いのだが。 「お前昔から早い展開に弱いよなあ!すぐテンパるテンパる」  散らばったカードを元に戻しつつ、月夜はからからと笑う。 「そういえば、子供の頃の対戦成績覚えてるかよ。体育の成績も喧嘩の強さもお前が上だったのにさ、こいつで俺に勝てたことほとんどなかったよな。俺の記憶通りなら戦績は俺の四百八十五勝、二十一敗だ」 「待て待て待て待て、なんでそんな細かい数字覚えてんの!?え、俺もっと勝ったことあったよな!?」 「無いデスー。お前が勝ったの、俺が手札事故して自滅した時くらいだからな」 「ええええええ」 「でもって今俺が三連勝したから、実際四百八十八勝なわけだな、俺の!」 「えええええええええ」  なんでそんな数字まで覚えてるんだ、と俺は頭を抱えるしかない。とりあえず一端休憩して、彼が持ってきてくれた紙袋を開けることにした。中には俺が大好きなビールとサワーの缶が何本か、さらにおつまみのチーズとクッキーが入っている。  ついでに何か封筒のようなものもちらりと見かけた。緑色の封筒には、表に“蓮司へ”と書かれている。 「あ、その手紙は今ここで開けるなよ、マジ恥ずかしいかんな!」  月夜は焦ったようにストップをかけてきた。 「一応そういうもんも入れとかないといけねーかなと思ってさ。お前が忙しかったら、ツマミも酒もこの場で飲まないで置いてって帰るつもりだったし。それ見るのは俺が帰ってからにしてくれよ、な?」 「はいはい、わかりましたよ。つか月夜、俺が好きなサワー覚えててくれたんだ。氷塊シリーズほんと好きなんだよな、安くてウマい」 「俺も好き。後味がいい。特に王道のレモン味がいい」 「わかってんじゃんー」
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