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懐かしい相手とカードゲームをしたことで、なんとなくお互い昔に戻ったような気分になっていたのだろう。学生のようなノリで騒ぎつつ、まずはビールで乾杯した。こんな風に彼を気軽に家に招くことができるのも、多分今日で最初で最後になるかもしれないと思うと少しだけ切ない気持ちになる。理由は簡単、自分はもうすぐこのアパートを出ていくことになるからだ。流石に独り暮らしでなくなるともなれば、そうそう気安く友人を家に呼ぶこともできなくなってしまうだろう。
少なくとも、このごっちゃりしたアパートで、遠慮なく騒ぐことはきっと難しくなる。月夜にも月夜の生活があるだろうから尚更だ。
「俺が大阪に行っちゃったから無理だったけどさ」
ビールを煽りながら、月夜が言った。
「中学の時約束したの覚えてっかよ、蓮司。成人式の夜に集まって、一緒に鍋パしようって言ったじゃん?」
「あー約束したな」
「で、その時俺、お前に言ったんだとな。その時には、もっと強い男になってお前をびっくりさせてやるからなって」
「したした、そんな約束」
よく覚えてるなあ、と俺は感心してしまう。もっと強い男になってみせる――月夜が俺にそんなことを言ったのは、当然理由があったのだった。そう、中学までの月夜は今と違ってチビで華奢で、女の子みたいに弱弱しい少年であったのである。
幼稚園の頃から、そんな彼はいじめられてばっかりだった。そんな月夜をいつもすぐ傍で守っていたのが、当時彼よりずっとタテにもヨコにも大きくて、兄貴分を気取っていた俺であったのである。頭が良くて人当たりが良かった彼と違って、俺にあったのは運動神経の良さと喧嘩の強さだけ。体育の成績以外では、全部月夜に負けていると思っていた。――彼は自分に感謝してくれていたようだが、なんてことはない、月夜を守ることは俺のアイデンティティの確立でもあったのである。
自分は彼より強い。優れたところがある。彼を守ることで、そういう自分にどこかで酔いしれていた。今考えると、なんとも器の小さい男だったと恥ずかしくなるものである。
「今の俺はどうだよ、少しは強そうな男になったか?お前がびっくりするくらいにはよ」
にやり、と笑う月夜。俺はまじまじと彼を見つめて、一言。
「強そうっつーより、チャラい。とりあえず俺に身長10cmヨコセ」
「ひでえ!」
「いやだって、あのチビが俺よりデカくなるとかなんだよ!背高くて成績良くてイケメンかよふざけんな俺のアイデンティティ返せ!」
「大丈夫だ、蓮司は最初からイケメンじゃねえから!」
「んだとコラ!」
ああ、段々と言っていても空しくなる。ぽこぽこと彼に拳を振り下ろしながら俺はため息をついた。
「もう俺の護衛はいらないですか、そーですか。あー、お前のヒーローやってた時は、ちょっと俺もカッコよくなれたつもりだったんだけどなあ」
我ながらみみっちいとは思うが、元より遠慮するような仲でもない。そう、かつての俺は、この幼馴染のヒーローを気取っていたし、そう自称していたのだ。女の子ではないけれど、女の子のように可愛い弟分に慕われるのがすごく嬉しかったというのもある。
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