第四部 私もあなたが好きだった

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 ワールドインポートマートビルの屋上には、サンシャイン水族館だけでなく、他にもプラネタリムがある。水族館を出てすぐのところにそれはあって、予定より少し早かったが、取り敢えず中に入ることにした。  プラネタリウムは初めてだが、どうやら券売機で該当の上映チケットを購入しておく形式のようで、普通の映画館と変わらないようだ。  俺とアニェスは券売機で、目的の上映チケットを買って、取り敢えず時間まで待つことにした。 「俺、プラネタリウム初めてだ」  なんとなく話題が欲しくて、アニェスにそう呟く。 「私もだよ。楽しみだね」 「ああ」 「ルミちゃんとかとは、一緒に出かけたりしないの?」 「あいつは引きこもりだからな。俺が買いに出ないと生活必需品も通販するような奴だ」 「あはは。今度一緒にお出かけしてみれば? また新しい一面を知れるかもよ?」 「その前に体力を付けないとな。歩いてすぐ倒れられても困る」  しばらく他愛ない話をしていると、上映館が空いたようだった。俺とアニェスは券を切ってもらい、施設の中へ入っていく。  入場自体は早めだったので、俺たちは良さげな席を選んで座ることができた。人もあまり多くなく、暑苦しさもない。席に腰掛けてしばらく待っていると、上映が始まった。  今回選んだのは、四季の星座と呼ばれるプログラムだ。その名の通り、日本の四季の夜空を順番に巡っていくというものである。プラネタリウムは初めてだったが、落ち着いた音楽が流れたり、リラックスできるアロマのような香りがしたりと、非常に心地の良いものだった。プラネタリウム自体も本物と見紛うほどに完成度が高く、俺は心底驚きながら眺めていた。  これはむしろ本物の星空を眺めるより快適かもしれない。そんなことを思いながら眺めていて、俺はふと隣に座っている(座っていると言っても、席自体が倒れてほぼ寝ているような体勢だったが)アニェスの様子が気になった。  俺は勘付かれないようにそっとアニェスの方を見やる。彼女はまるで星空のように目を輝かせて、プラネタリウムに見入っていた。どうやら気に入ってくれたらしい。  アニェスに嗅覚が一応備わっていることは知っていたから、このアロマの香りも楽しめているだろう。  俺はなんだかとても嬉しい気持ちになって、プラネタリウムに向き直った。
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