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「でも、信じていて良かった。五年も経っちゃったけど、それでも君に会えて良かったと思っている。ルミは俺が過去に生きていると言っていたけど、それももう終わった。これからは未来のために生きるんだ。色々大変なことがあるかもしれないけど、それでも――」
俺はゆっくりと彼女の方に振り向いた。アニェスは静かにこちらを見据えている。
「俺は、アニェスが――」
すぐ近くで、爆発音がした。俺は驚いてそちらを振り返る。
方向的にはサンシャインシティ側だ。今は離れているものの、距離的にも遠くはない。周りにいる人々も、直前の爆発音に驚いて、心配そうに辺りを見回していた。
反政府組織のテロか? しかしここはいわゆる中立都市だ。日本人も外国人も争いは禁止されているはず。
そうなると、単なる事故なのか? 俺はそこまで考えて、とにかく近くにいたら危険だと判断する。今の俺は武装も何も持っておらず、もしテロの類だった場合、アニェスを守ることができないからだ。
「アニェス、取り敢えずここから離れ――」
アニェスの方に振り返る。
しかしそこには、頭を抱えて唸っている彼女の姿があった。
「?! アニェス! どうした!」
驚いてアニェスに近寄る。彼女はまるで強烈な頭痛に襲われているかのように、強く頭を押さえていた。
「アニェス! 返事をしろ! アニェス!」
全くこちらに反応を返さないので、俺はとにかく彼女の肩を掴んだ。
しかし、
「触らないで!」
俺の手は、恐ろしい膂力で振り払われてしまう。
「アニェス――?」
俺はどうしていいかわからなくて、その場に立ち尽くしてしまう。するとアニェスがゆっくりと顔を上げる。その瞳には感情の色がなくて、まるで本当に意思のないアンドロイドのようだった。
「逃げ、て――ユ、ウ」
アニェスはそう短く告げると、勢いよく俺に襲い掛かってきた。まさかアニェスがこちらに襲い掛かってくるとは思ってもみなかったので、俺は完全に不意を突かれてしまう。
彼女の鋼鉄製の腕が、勢いよく俺の前頭部を強打した。
視界と意識が揺らぐ。平衡感覚というものが曖昧になって、自分が今どこにいるのかが不鮮明になっていく。
後頭部に痛みを感じた。どうやら俺は地面に叩きつけられたらしい。
「アニェ、――ス」
視界の端に、彼女が俺に背を向けて爆発音がした方に歩いていく場面が映り込む。
しかしその一場面を目撃して、俺の意識は闇に墜ちてしまった。
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