第四部 私もあなたが好きだった

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「――ん! ――ねん! 少年!」  なんだか母親に包まれているような気分だった。その匂いはどこか母性を感じさせて、俺に安心感を与えている。しかしその聞き覚えのある声から、俺を呼んでいるのが母さんではないことを物語っていた。 「少年! 目を醒ませ!」  ハッとして目を開く。ぼんやりとした視界に、金色の何かが映り込んだ。本能的に、俺はそれがアニェスではないかと疑ってしまう。しかし視界が晴れていく内に、それが別の人物であることに気が付いた。 「良かった……少年、無事だったな。――おい医療スタッフ! こっちに一人だ!」  俺を抱きかかえているのは、シェパーズの副官であるヴィヴィだった。彼女は恐らくシェパーズの医療スタッフであろう人物に俺の状態を確認させているようだった。 「大丈夫だったか、少年? 傷は痛むか?」 「――アニェスは?」 「――アニェスだと? 少年、まさかアニェスについて何か知っているのか?!」  ヴィヴィは大声を上げたが、医療スタッフに窘められて静かになった。 「――少年。今は取り敢えず安静にしろ、君は重傷だ」 「俺の、怪我は――?」 「見た限り頭部裂傷だな。後頭部も強打したんだろうが。この区域にいて無事なのは少年だけだろう」 「――? どういうことですか?」  そう言うと、ヴィヴィは周りを見てみろと指を差した。俺は痛む身体を持ち上げて身体を起こす。  しかし、俺の視界を埋めたのは、あの葛西臨海公園のような地獄の惨状だった。  池袋の街は炎に包まれていて、路肩に多くの人間が血を流して倒れている。その多くは外国人で、銃弾か何かに撃ち抜かれたのか、身体のどこかに穴がある亡骸が多かった。 「……これは――?」  言葉を失うほどの惨状だ。ヴィヴィは沈鬱そうに俯きながらも、こちらに向き直ってくれる。 「シェパーズに一報が入った。池袋でアンドロイドが暴走して、外国人を処刑して回っていると。それと同時に私の端末にもルミちゃんから連絡が入った。お兄ちゃんと連絡が取れない、アンドロイドが暴走している池袋にいるはずだから助けてくれと。それで我々は武装して池袋に急行したわけだが。もう来た頃にはこのザマだ。徘徊しているアンドロイドを殲滅しながら先に進んでいたが、奴ら、恐ろしい耐久力でな。無反動砲でも食らわせないと、動きを止められないんだ。その最中に気絶している少年を見つけたというわけだ」
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