第四部 私もあなたが好きだった

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 医療スタッフの応急処置を受けながら、俺はヴィヴィの話を聞いていた。 「それと少年。先ほどアニェスと言っていたが?」  実はヴィヴィには、アニェスを発見したことを伝えていなかった。それはアニェスの存在をヴィヴィとは言え外部に漏らすのは、彼女を危険に晒す行為だと思えたからだ。  もう隠していても仕方ないと、俺はこれまでの顛末をヴィヴィに伝えた。 「――そうか。そんなことが――」  ヴィヴィはとても悔しそうな表情をした。 「少年。アニェス計画だが、最近になって判明したことがある。アニェス計画はボトムアップ型の人工知能を作る計画だが、政府の連中、恐ろしい計画を立てていたらしい」 「――それは――?」 「ボトムアップ型の人工知能。それを作るためには、まず人間と同等の脳みそが必要になる。しかし現代の技術では、人の脳を再現するのは不可能に近い。そこでだ」  俺はそこまで聞いて、アニェス計画の真相を察してしまった。 「元々生きている人間の脳みそを人工知能に改造して、AIを完成させようというのがアニェス計画の真相だ。そしてその被験体には、五年前に故意の事故で肉体を失って脳みそだけになった、アニェス・シュヴァリエが選ばれた」  人間の脳を使って、人工知能を再現する計画。そしてその被験体に、アニェスが選ばれていた。 「完全な人工知能を完成させて、“ライブラリ”の中枢をそれに任せる。そして軍事兵器を完成した人工知能によって完全に支配し、新しい戦術駆動機体を作り上げる。新しい兵器、新しい戦争をしようってわけだ、この国の政府は」  ヴィヴィは怒りを抑え込むかのように、唇を噛んでいた。しかし俺はその真実をついに知って、内なる怒りを抑えられそうになかった。 「――なんで」  俺は叫んだ。 「なんで! アニェスがそんな目に遭わなきゃいけないんだ! 彼女は歌が好きな普通の女の子だ! なのにそんな子が、どうして! そんなくだらない計画のために使い潰されなきゃいけないんだ!」  ライブラリ? 完全な人工知能? 新しい戦術兵器?   そんなものどうだっていい。俺はただ、アニェスを普通の女の子に戻してあげたい。なのにどうして、政府の連中は彼女を実験体として、そして人殺しなんてさせてるんだよ!
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