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俺は怒りの中で、そして確かに一つの目的を見出していた。
アニェスを救い出す。こんなバカげた計画に付き合わされる必要なんてないんだ。
「ヴィヴィさん。アニェスを取り戻すには、どうしたら良いですか?」
俺は怒りを抑えながら、そう彼女に尋ねる。
「アニェスさんは今、ライブラリの中心として、技術研究本部の中枢コンピューターに接続されている。彼女を助けたいのなら、技術研究本部を叩くしかない」
技術研究本部。
アニェスと再会した場所。
そこに行けば、彼女の本体と会うことができる。これまで接していたのは、恐らく彼女の本体と接続していた端末の一つなのだろう。
「我々としても、先ほどのアンドロイドを戦地に投入されれば、戦線の崩壊は目に見えている。だから本格的に実践投入される前に、技術研究本部を叩く必要がある」
「――だったら、俺も部隊に加えて下さい!」
俺は医療スタッフの手を振り払って、ヴィヴィに詰め寄った。
ヴィヴィは呆れたように息を吐くと、
「しかし君は重傷だ。そもそもそんな怪我で戦線には加えられない」
「だけど!」
そう叫ぶと、ヴィヴィは鼻から息を吐いて、俺の前髪に触れてきた。
「――落ち着け、少年。君は見た限り、一人だけの軍隊(ワンマン・アーミー)の適性が高いようだ。だから敢えて我々と共に戦う必要はない」
そう言うと、ヴィヴィは俺の耳元に唇を寄せてきた。
「あとで技術研究本部の強襲日を伝える。その際に潜入して、アニェスさんの本体を持ち出すんだ。それしかない。良いか、これは世界の命運を賭けた戦いだ。あの戦闘用アンドロイドが導入されれば、世界の戦争は色を変える。多くの犠牲者が出るだろう。奴らが投入される前に、アニェス計画を無力化するぞ」
俺は静かに頷いた。
ヴィヴィは俺から顔を離すと、慈愛に満ちた表情を浮かべる。
「君はやはり奴に似ている。だから生き残れるはずだ。――時代を駆け抜けろ、少年」
ヴィヴィは俺から離れて立ち上がった。
「じきにヘリが来る。とにかく君はウチの施設で療養してもらう。良いな?」
「――はい」
ヴィヴィは最後にこちらに向けて微笑んで、この場から去っていった。俺は医療スタッフによって担架に乗せられながらも、一人静かに決意する。
アニェスを連れ戻す。俺とルミとアニェスがいた日常を、もう一度取り戻すんだ。
「よし! 負傷者を優先して乗せろ! 無傷の隊員は最後だ!」
ヴィヴィの指示が飛び交う中、池袋の地に数機のヘリコプターが降り立った。
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