第五部 愛してるを歌にして

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第五部 愛してるを歌にして

 担架に乗せられた俺は医療スタッフによって、到着したヘリに搭乗させられた。  ヘリは民間で使用されているものを軍事転用したものらしく、両脇に括り付けられた機銃が目を惹く。しかしこのヘリは兵員輸送を基本としているらしく、機銃以外に誘導弾や対地ミサイルの類は装備されていなかった。  ヘリのプロペラによる風圧に顔を押さえながら、俺はヘリに乗り込んだ。兵員輸送と言っても、今回のこのヘリは負傷者輸送を念頭に置いているのか、担架を置けるスペースを確保しているようだった。俺も医療スタッフによってヘリの椅子に固定され、負傷した頭部を診てもらっている。すると他の負傷者の搬入も終了したのか、大声で指示を出すヴィヴィがヘリに乗ってきた。 「よし、出せ!」  ヴィヴィの指示が飛んで、ヘリコプターは滞空状態を解除したようだった。少しだけ身体が浮く感覚が全身を包み込む。ドアに設置されている窓から外を見ると、ヘリは上昇を始めたらしい。ヴィヴィはヘリのドアを完全に閉めてロックすると、一息ついたように辺りを見回した。彼女は近くにいるスタッフに何事か指示を出すと、ゆっくりとこちらに近づいてきた。 「調子はどうだ? 少年?」 「快調とは言えませんね」  そう冗談めかして返すと、ヴィヴィは笑ってくれた。 「はは、その元気があれば大丈夫だ。おい、少年の容体は?」  ヴィヴィは先ほどから俺を診てくれていたスタッフに声をかけた。 「応急処置と簡易的な確認しかしていませんが、脳に後遺症などはなさそうです。まぁ精密な検査をしてみなければわかりませんが」 「そうか、助かった。後は私が」  一通りの処置も終わっていたのか、医療スタッフの方は別の負傷者の方へ移動していった。  ヴィヴィは大きく息を吐きながら、俺の隣に腰掛けた。 「ま、君が無事で何よりだ少年。死体の君を発見したら、ルミちゃんに顔向けできないからな」  想像もしたくないことだが、あのアニェスの攻撃、どこか躊躇があったように思える。まるで本能に抗う獣のような。そもそも鋼鉄で出来ているアニェスの攻撃をまともに喰らったら、その時点で頭蓋骨は粉砕されているだろう。そう考えると、やはり手加減(この表現が正しいかは微妙だが)されていたようだった。
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