第五部 愛してるを歌にして

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「今は安静にすると良い。自慢じゃないが、ウチのスタッフは優秀なのでね。そこらの医療施設より良い待遇を受けられるぞ」 「それはもとより実感しています。前に助けていただいた時も、とても適切な処置だったようで」 「ま、ある程度の技術力がないと反政府組織(レジスタンス)なんてやってられんからな。生半可な部隊じゃ、自衛隊に一掃されてお終いだ」  シェパーズの内情には詳しくないが、日本政府とほぼ対等にやり合えるだけ、それ相応の実力を有しているのだろう。そうでもしないと、ヴィヴィの言う通り日本の武力に蹂躙されてお終いなのだから。  そこで俺は少し聞いておきたいことに思い当たったので、ヴィヴィに尋ねることにした。 「ヴィヴィさん。アニェスについて他にも知っていることはありますか?」  そう尋ねると、ヴィヴィは少し意外そうな顔をした。 「と言ってもだな少年。君は先ほどまでアニェスさん当人と一緒にいたのだろう? 普通に考えて私より詳しいのではないか?」 「でも、アニェスは自分のことを殆ど話さなかったんですよ。さっきヴィヴィさんの話を聞いて、それにも納得しましたが」  完全なる人工知能の創造。それを元々完成している人間の脳みそを転用する計画。そんな馬鹿げた計画を俺に話でもしたら、すぐにでも技術研究本部に押し入って、本体を奪い返しているところだ。  ヴィヴィは理解したのか、なるほどと何度も頷いていた。 「それは構わないが、私としても最近になって判明したことが多くてな。あまり整理できてないが構わないか?」 「構いません。お願いします」  ヴィヴィは一息つくと、つらつらと語り始めた」 「アニェス計画だが、この計画が発案されたのは五年前。しかしそれよりもっと前に、構想自体はあったようなんだ」 「人工知能を人の脳を使って再現するってことがですか?」 「ああ。しかし、これには一つ問題があってな。確かに人間の脳を使って人工知能自体を作ることは可能だが、それは基本的に自立型(スタンド・アローン)のものしか作れないのだ。つまりライブラリのような集積コンピューターの中核としては扱えないわけだな」  ライブラリ。政府が実験中の集積システム。俺にアニェスらしきメールを送ってきたところだ。しかしそう言えば再会できた喜びに飲まれて、彼女のメールについて感謝をしていなかった。
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