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「そこで考え出されたのが、被験体に特殊な人間を使うということだ」
「特殊な人間?」
「君にも覚えがあるだろう。ルミちゃんのような祝福者(ギフテッド)のことだ」
ある分野に卓越した才能を見せる子どもたち。彼らは大人から祝福者(ギフテッド)と呼ばれ、将来を嘱望される。というか、ヴィヴィがルミのことを祝福者(ギフテッド)だと見抜いていたことに驚きだ。まぁヴィヴィの能力を考えると、彼女も似たようなものか。
「そういうわけで、人工知能の基盤には祝福者(ギフテッド)を使用することになったらしい。そこで白羽の矢が立ったのが、アニェスさんというわけだ」
アニェスが? しかし彼女は祝福者(ギフテッド)ではないはずだ。
「ほう、やはり知らなかったのか」
ヴィヴィは憐れむような表情を浮かべた。
「知らないって? まさか――」
「そうだ」
ヴィヴィはこちらに向き直って、
「アニェスさんは祝福者(ギフテッド)だった。それも世にも珍しい多重思考(マルチ・シンク)の能力者として」
多重思考(マルチ・シンク)。聞いたことない能力だ。
しかし、アニェスが祝福者(ギフテッド)だって? そんなこと、一度も聞いたことない。
「まずは能力の説明をした方が良さそうだな。多重思考(マルチ・シンク)とは、いわゆるマルチタスクの同系だ。そもそも人間はマルチタスクなど不可能なことは知っているな?」
「ええ。人は一つのことしか集中できないみたいですね」
「しかしだ。本当に分割思考として言えないような多重思考形態を有している子どもがいた。それがアニェス・シュヴァリエだ。彼女は同時にほぼ無限と思しき数のタスクをこなすことができるらしい。過去に何かの実験に参加した記録が残っていた。それを参照すると、やはり彼女は祝福者(ギフテッド)で、多重思考(マルチ・シンク)と呼ばれる能力を有していたらしい。最も、ご両親が娘をモルモット扱いされることを嫌がり、祝福者(ギフテッド)であることは隠す意向になったようだがね。君が知らないのも無理はない」
つまりアニェスは祝福者(ギフテッド)だったが、それを俺たちに隠していた、というわけか。
まぁルミの例を見ても、出る杭は打たれるものだ。祝福者(ギフテッド)は一般の暮らしに馴染めない傾向があった。だからこそ、その能力を隠すのは理にかなっているとは言える。
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