第五部 愛してるを歌にして

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「――隊長! 本部より連絡です!」  すると急にシェパーズのスタッフらしき男が現れて、ヴィヴィ前に立った。 「どうした?」  スタッフはヴィヴィの耳に口を寄せ、何事かを伝えた。  そこで、話を聞いていたヴィヴィの顔色が変わる。 「それは本当か?」 「はい。諜報班からの連絡ですから、確実性は高いかと」  ヴィヴィはスタッフに下がっていいと伝えると、一人大きな溜息を吐いた。  聞いて良いのかわからなかったが、なんだか胸騒ぎがする。 「あの、ヴィヴィさん。何かあったんですか?」 「――悪い知らせだ。先ほど池袋を襲った戦闘用アンドロイドが、もう既に実戦配備段階にあるらしい。東京都内の各駐屯地に納入が進んでいるようだ」  周りにいたシェパーズの隊員たちも、驚きの声を上げた。  戦闘用アンドロイドの実用化。それはつまりシェパーズの敗北を意味していた。  無反動砲でも怯ませることしかできない鋼鉄の機動兵器に、小銃で立ち向かえるはずがないのだ。 「――これは、予定を早める必要があるな」  ヴィヴィは嘆息して、そして声を張り上げた。 「通信士、本部に連絡しろ。今夜、シェパーズの全勢力をもって技術研究本部を叩く。動かせる部隊は全て集めろ。良いか、ここで負けたら我々に未来はない。これはシェパーズのための戦いでもあるが、それ以上にこの世界のための戦いだ、良いな!」  ヘリの機内にいる部隊員が全員大声で返事をした。  ヴィヴィは頷いて、こちらに向き直る。 「――少年。そういうわけだ。君は本部に置いていく、良いな?」  本当なら、日を改めて強襲をかける予定だったんだろう。しかし既に戦闘用アンドロイドが実戦配備段階にあるのであれば、もう逃げられない。完全に配備が完了すれば、シェパーズに勝ち目はないのだ。  俺は唇を噛んで、それでも身体を起こした。 「――俺も戦います」  それを聞いて、ヴィヴィは哀しそうな表情になった。 「無理だ。その怪我では――」 「大丈夫です」  俺は言い切った。もちろん大丈夫ではないことは自分でもわかっている。  しかし、今アニェスを止めなければ、彼女を世紀の殺戮者にしてしまうことになる。アニェスと接続されている戦闘用アンドロイドが殺戮を行えば、それはアニェスの罪になってしまうからだ。  そんなことはさせない。平和を歌った少女を殺戮者なんかにはさせない。俺が絶対に助け出してみせる。  ヴィヴィは俺の真意を見定めるかのようにこちらを見つめていたが、ついに諦めたように息を吐いた。 「はぁ。まぁ言っても聞かんだろうしな」  ヴィヴィはそう言って、儚そうに笑った。 「本当に君は似ているよ」  誰に似ているのか聞こうとして、ヴィヴィは腰を上げた。 「出撃は今夜だ。それまでは養生しろ。君は潜入工作兵だ。単独行動が基本となる。バックアップはこっちが行うから安心しろ」  ヴィヴィのその言葉に、俺は確かに頷いた。
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