第五部 愛してるを歌にして

6/20
前へ
/134ページ
次へ
 しばらくして、ヘリはシェパーズの本部に到着した。シェパーズの本部の所在地は知らなかったが、いくつかの基地が東京近辺に存在しているようだった。  俺はヘリから担架で下ろされて、医療ブロックに搬入された。すぐさま精密検査が行われたが、所見は問題なかったらしい。前頭部の裂傷が激しいため絶対安静と言われたが、俺は曖昧に返事をした。  取り敢えず寝てろということだったので、作戦開始時刻までヴィヴィに言われた通り養生することにした。  俺は今、医療ブロックの病棟に入院している。頭部に巻いた包帯が煩わしいが、外すわけにもいかない。しばらく待っていると、ヴィヴィの代理だと言う女性が現れた。 「お連れ様が参りましたよ」  そう告げる女性に対して、俺は疑問符を浮かべずにはいられなかった。  しかしそこに現れたのは、 「おにいぢゃん――」  べちゃべちゃに泣き腫らしたルミだった。 「ルミ?!」  俺はまず、彼女が外出を行ったことに驚いていた。アニェスと出かけたことはあったが、一人で出てくるのは何年振りという単位だ。 「おにいぢゃーん! 無事でよかっだぁ!」  ルミは飛びついてきて、絶妙に頭部にダメージを与えてきた。 「痛い痛い痛い! わかったから離れろって!」  俺は無理矢理ルミを引き剥がして、落ち着かせることにした。 「お前、一人で大丈夫だったのか?」  ルミはまだ泣いていたが、それでも顔を上げてくれる。 「ヴィヴィさんから連絡があってね。お兄ちゃんを収容したからどうするかって。本人は今夜の技術研究本部強襲に参加するって言ってるけどって。あたしもう放っておけなくって」  それで遥々シェパーズの基地までやって来たということか。  しかしあのルミが単独で外出するなんて、天変地異の前触れではないかと疑ってしまう。 「ちょっと外気に触れすぎて気持ち悪いけど、大丈夫だよ。それと」  ルミは俺にしがみつく手に力を込めた。 「もう頑張らなくていいんだよ。アニェスさんのことはシェパーズの皆さんに任せて、お兄ちゃんは休んでいよう? そんな怪我じゃ、戦えないよ」  ルミは有無を言わさぬようにか、顔を俺の胸にうずめてそう呟いた。 「もう良いんだよ。お兄ちゃんは頑張った。これ以上もう傷つかなくたって良いんだよ――」
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加