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ルミはまた泣いてきた。彼女の内心は推し量るしかないが、少し理解できる部分もある。
俺はルミに復讐の手伝いをさせていた。それはルミにとっても本意ではなかっただろう。彼女的には、俺とずっと平和に暮らしたかったはずだ。
最近、ルミには心配をかけすぎた。だからこそ、もう俺に危険な目には遭って欲しくないんだろう。そのことは、なんとなくわかった。
だけど、
俺はルミの頭に手を置いて、少しだけ乱雑に撫でる。
「――俺はな、お前が大切だ。だからこそ、今回は戦わなくちゃならない」
「どういうこと?」
「アニェスのアンドロイド部隊が実戦配備されれば、この国は独裁国家になる。そうなれば祝福者(ギフテッド)であるお前は、アニェスと同じように実験体にされるかもしれない。これはアニェスのためでもあるが、お前のためでもあるんだ。技術研究本部は守りを固めるだろう。シェパーズと言えど、通常の手段じゃ突破は難しいはずだ。そこで俺がいれば、潜入工作という手段を採ることができる。目的はアニェスの本体の回収だ。そのためには、俺という一人だけの軍隊(ワンマン・アーミー)が必要なんだ」
ルミは唇を噛みながら何かの感情に耐えているようだった。
俺は胸を痛めながらも、彼女の頭を撫で続ける。
「この一戦は、色々なことが賭かってる。俺たちの未来のためにも、俺は戦いたい」
少しズルい言い方になってしまった。もちろん俺の言葉に嘘はない。しかしやはりアニェスのことが念頭に置かれているのは、ルミであればわかってしまうはずだ。
ルミはその後俯いていたが、しばらくして決意を秘めたような顔を向けてきた。
「――わかったよ。これからの未来のために、戦うんだね。だったら、あたしも協力する!」
ルミはそう言って俺から離れると、背後に置いていたトランクケースを持ち寄ってきた。
「――これは?」
「やっぱり持って来ていて正解だったね。戦うんだったら、必要でしょ?」
そう言ってルミはトランクケースを開けた。
そこには、エイディング・スーツやコンタクトレンズ、イヤーチップにシグ・ピストルなど、潜入工作に必要な装備品が殆ど積まれていた。
「やっぱり、戦うって言いそうだったからね。不本意だけど、持って来てたよ」
俺は目頭が熱くなって、ルミから顔を背ける。
「んー? もしかしてあたしの行動に感激しちゃった? だったら頑張って、アニェスさんを取り戻して来てよね!」
「――ああ、必ず。約束だ」
俺はルミに向き直って、彼女に自分の意思を伝えた。
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